(注1) 真空管が価値ある存在であったために、修理機能を併せ持ったラジオ商は絶対的な存在でした。ところが、メーカーが一気に修理を引き受けることを可能にしたトランジスターの登場により、伝統的なラジオ商の経営が成り立たなくなってしまいました。 このようなリスク発生の度合いが高まる一方です。最近の出来事ではソニーのウォークマンが携帯ミュージック・プレイヤー分野におけるダントツ世界一の地位をアップルのi-Podに奪われたことが有名です。この背景にはインターネットからダウンロードすることも含めてパソコンにミュージック・コンテンツをストックするやり方が普及したことを契機として実現した次の図式がありました。 ミュージック・コンテンツの記憶媒体としてハードディスクを使い、検索機能を使って好きな音楽を臨機応変に楽しむことができるi-Podが登場した + ソニー・ミュージックの著作権を守らなくてはないという特殊事情があった + 圧倒的なシェアーを誇るソニーはマンネリズムが支配的であった ⇒ ウォークマンは新しい流れについていくことができなかった。 市場を新たに支配するロジックへの適応が大幅に遅れた背景には結果としての癒着体質があったのです。人間関係が癒着しやすい日本の社会は変化の激しい時代には不利であることを肝に銘じなければならないでしょう。(関連記事 ⇒ 『デフレ経済の本当の理由 /人間関係のあり方を様変わりさせる』) 半導体の立地条件が変わってきたことも市場を新たに支配するロジックの例です。良質の水が豊富になければ、半導体の製造はできない。この常識を大きく覆すような技術が生まれ、ハイテクの立地条件が大きく変ってきたのです。 異変への不適応例は公共部門においても枚挙の暇がありません。(具体例 ⇒ 『バブルが発生した本当の理由 / 政策が後手に廻った本当の理由 / ケインズ政策は通用する場合と通用しない場合がある』 異変は歓迎できないことなのでしょうか? 「否」です。なぜなら、異変は大きな技術革新がそうであったように社会にしっかり根を下ろした既成勢力にも存立基盤が脆弱な勢力にも大きなチャンスを提供するからです。 存立基盤が脆弱な勢力にとってはまたとない大きなチャンスです。なぜなら、社会にしっかり根を下ろした既成勢力は築き上げた地盤と染みついた習慣が災いして新しいチャンスをものにするための行動を妨げることが多いからです。(例:インターネット利用の戸惑いが質・量の生産性向上を妨げる等) しかしながら、「思考の三原則」(全体を見る/長い目で見る/根本的に考える)を踏まえない短絡的な行動は大きなリスクの発生に結びつくことを覚悟しなければなりません。(具体例 ⇒『技術革新が招いたカラオケ・ビジネス興亡の歴史 / 自由貿易の積極的推進は米国の強みを損ないかねない』) (注2) 勘や洞察力が強化されると、見えにくいものが見えたり、気づきにくいことに気づけるようになり、深く潜在しているチャンスやピンチに適切に対応できるようになります。 このようなことができる人物を鋭い直観回路の持ち主と言います。(関連記事 ⇒ 『複雑な問題の核心を見抜くことができない実態』)この対象には、EVの欠点(例:高速道路で動けなくなった場合、打つ手なし)も含まれます。
(節子) 「ピント外れの問題解決策が打ち出されることが多くなりました」は「日本人の縮み思考、安定枠組み依存はここまで染み込んでいるのか」「これって日本病かもしれない」と思い、ショックを受けた。崖っぷちの日本経済を救うための政界努力にも似たようなことがあったら教えて欲しい。 (高哉) 大手メーカーは好業績を挙げているのに下請けメーカーは真逆となっている。これを巡って2016年4月4日放映のプライムニュースの中での自民党の片山さつき議員と民進党の辻元清美議員の議論が良い例になるんじゃないかな。 「片山議員は取引公正化のためのルール作りを、辻本議員は中小企業の社会保障費の軽減を」訴えていた。文字通りであるとすれば、前者は大手メーカーと下請けメーカーの単なる利益配分に、後者は国家財政の悪化に…ということに帰結しかねない。 (節子) そうだとすると、日本経済全体の生産性を大きく引き上げることが泥舟化した日本経済を救うために必要不可欠であることがお二人の意見から抜けている。こう思われても仕方がないわね。このままだったら貴方がよく言う全体知欠如症になってしまう。 「日本経済全体の生産性を大きく引き上げるためには、大手メーカーと下請けメーカーはウィン-ウィンの関係にならなくてはならない」ということね。これって難しすぎるんじゃないかしら? (高哉) ウィン-ウィンの関係は結果であって、下請けメーカーの自助努力を先行させなければならない。単純化した具体策は次の通りだ。 能力を鮮やかに変身させる三つの方法を念頭に置いて経営ビジョンを創る ⇒ 経営ビジョン実現策として新規事業・新商品開発テーマを策定する ⇒ 下請けメーカー単独の事業展開を行う&/or取引先である大手メーカーとウィン-ウィンの事業展開を行う。(ビジョン開発のヒント ⇒ 『成長分野に成功裡に進出する秘訣 / 豊田市地域商業近代化ビジョンのあらまし』) この自助努力を円滑に行えるようにする秘訣となるのが社長力抜本的強化だ。その際に忘れてはならないのは戦略発想力強化。環境変化を最大限利用しない事業開発は地についたものにならないからね。 (節子) 下請けメーカーの自助努力は必要不可欠であることは理解できるけど、日本経済全体の生産性を大きく引き上げるためには好業績を挙げている大手メーカーを、攻めの姿勢に誘導する方が手っ取り早いんじゃないかしら? 円安効果により内部留保は溜まり続け、300兆円に達してしまったそうじゃない。片山議員は「製造業の雇用力が減る一方なのは先進国共通の現象だ」と言っているけど、「ああそうですか」と済ましているわけにはいかないと思うの。 (高哉) 開発途上国の先進国へのキャッチアップが進み、地球レベルで工業化が進んでしまった。このことを素直に受け止めれば、片山議員の言っていることは正しい。但し、これは枠内思考の結果にしか過ぎない。「陳腐化した枠内思考にしがみつくと悲劇の待ち伏せを受けることになる」を肝に銘じなければならない。 ここに僕が提唱している「新時代のビジネスモデル」や「ジグソーパズル思考力の強化が永遠の成長を可能にする」の意義があると受け止めて欲しい。 (節子) 貴方が提唱していることを促進しなければ、日本経済再生は困難なことがよく分かった。所得分配の見直しは“コップの中の嵐”にしか過ぎない。平等な社会ができあがっても、日本が静かに沈んでしまったのでは元も子もないものね。 (高哉) そうなんだ。辻元清美さんを初めとする野党議員の発言「日本経済活性化のためには子供手当などによる格差是正が必要」の背景には、「富裕層よりも貧困層の方が消費拡大の余地が大きい + 所得格差が拡大・固定化している ⇒ 貧困層の消費拡大は不可能になっている ⇒ GDPの6割を占める家計支出が冷え込んだままになっている」という図式があることは理解できる。 しかし、日本経済の緊急課題である「経済のパイ拡大策」が欠けている。政治家、特に野党議員には「シナリオ発想して新成長機会発掘に結びつくような難問解決策を考え出して欲しい。さもなくば、安倍政権をチェックできない」と強く言っておきたい。
(節子) 話しを元に戻したい。貴方が言うようなやり方で景気を良くするためには、「人的脳力を抜本的に強化する ⇒ 新成長機会を継続的に発掘する ⇒ 経済のパイを拡大する」という図式が必要になる。このことを辻本清美議員は認識しているんじゃないかしら? 「資源がない日本は教育投資に力を入れなければならない。消費税1%分に相当する2.4兆円の国費を使えば、希望者は無償で大学まで行ける」と言っているのよ。 (高哉) 国が教育費を全額負担すれば、「知性豊かな大人になる子供が急増する ⇒ 親の後顧の憂いは少なくなるので、消費がその分拡大する ⇒ 景気が良くなる」となる可能性がある。但し、深いデフレに沈み込むか否かの瀬戸際の日本経済を救うことに直結しない。それよりも遥かに大事なことが抜けている。 斬新な着眼の源「未知の既知化脳力」が身についていて初めて新成長機会の継続的発掘が可能になる。ところが、「専門家を初め日本人に潜在しがちな弱点」にあるようにそうなっていないのが実態だ。この実態は「古代は中国を、明治以降は欧米を」模倣してきた歴史的産物なので、この弱点を払拭できる教師・教授はごくごく限られている。 (節子) 貴方が今言ったことは教育の現場だけではなく、政界・官界・経済界にも当てはまる。ここに、貴方が提唱し、実践している 「総合的創造的脳力者が提起した斬新な着眼に満ちた大まかな問題解決策を専門家が詳細化する」やり方の必要性があるわけだけど、当事者をどのように納得させたらいいのかしら? (高哉) 「感情傾向を適切にしないと助言は空回りする」、「習慣のロックを外さないと挑戦行動を引き出せない」 ──── という二つの壁の乗越えを可能にする3ステップアプローチを採用することを強く勧めたい。 (ステップ1)「今のままでは駄目だ。なんとかしなくては」という状態に誘導する (深刻な悩みを抱えた対象セクターをポジショニングする ⇒ 「かくかくしかじかの環境だからやってこられたのだ」と自覚する) + 環境が変わっていくことを認識させる ⇒ 対象セクターの変革の必要性を痛感する ──、という手順を踏まなくてはなりません。 (ステップ2)「問題解決策が入手できそうでできない」という状態に誘導する 「自分が考えることがベストだ」となりやすいエリートは「問題解決策が入手できそうでできない」となっていることを認めようとしない可能性が大です。そこで、必要になるのが「根強い癒着体質が全体思考力(全体知)欠如に結びついている」と「特定分野にどっぷり浸かれば浸かるほど“知りすぎのリスク”と“知らなすぎのリスク”が発生する」を納得させることです。 そうすれば、自己否定感に陥らないので、総合的創造的脳力者の助力を得ることが可能になります。(関連記事 ⇒ 『高次元能力の持ち主が外部の助っ人を登用する傾向があります』) (ステップ3)「よしこれだ。何としてでもやり遂げよう!」という状態に誘導する 共創する問題解決策は当事者が「素晴らしい」「実現できそうだ」「自分も貢献できる」と思えるようなものでなければなりません。(関連記事 ⇒ 『各人各様の“小宇宙”を洞察した対策の必要性 /解決すべき問題の体系的な理解が挑戦を可能にする』)
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