(節子) うつ病などの気分障害者の患者数はこの10年で倍増して、100万人を超えてしまった。この数字は医師にかかった人の数。医師にかからず人知れずうつ病に悩んでいる人は1,000万人以上とのこと。深刻よね。 うつ病の恐ろしさを知らないと他人事にしてしまう人がいると思うので、聞きたいんだけど、この心の病にかかるとどうなってしまうのかしら? (高哉) 社会生活が困難になるんじゃないかな。というのは、うつ病になると三つの状態に陥ってしまうことが一般に伝えられているからだ。
(節子) 職場の人間関係が良ければ、「休職中に自分の居場所がなくなることを恐れる」は杞憂に過ぎないんだけど、現実は必ずしもそうではないと思う。どうなのかしら? (高哉) 正社員の労働強化が恒常化している + うつ病で長期休暇の社員が生まれる ⇒ 正社員の負担が一段と増す ⇒ うつ病になっている人に対する反感が生まれる ⇒ 職場復帰しても居づらい──、となっている場合が少なくないようだ。
(節子) 大分前にテレビ放映された『ガイヤの夜明け』(テレビ東京)で紹介されたサラリーマンのことを思い出して気が重くなる。というのは、「うつ病」と診断され、休職するに至った背景とその後の生活の実態は次の通りだった。「他人事ではない」と思う人が多いと思う。
うつ病患者が30歳代に急増しているそうだけど、この人物と似たような実態なのかしら? 対策が浮かび上がってくるように説明してくださらないかしら? (高哉) 退職者が急増しても人員が補充されない。こういう状態の前に単純化すると、次の二つの図式が重なってがむしゃらに働きがちとなり、ひいては何のために生きているのかが分からなくなっている。こういう状態になっている30歳代のサラリーマンが多いからだと思う。
(節子) 「頑張りやさんはうつ病になりやすい」という定説があるけど、この定説は間違いね。頑張っている心の状態が問題なんだから。・・・・・貴方の説明を聞いて次の図式を発想したけど、どうかしら? (自信が不足している ⇒ 不安になる ⇒ 精神が抑圧状態になる ⇒ 心的疲労が蓄積する) + (過剰労働が続く ⇒ 肉体的疲労が蓄積する) ⇒ 心身のフレキシビリティーが失われる ⇒ うつ病になる。 (高哉) いいんじゃないの。でも、頑張るという現象がなくてもうつ病になることにも留意しなければならない。女優の音無美和子さんのことを思い出せば、「なるほど」となるんじゃないかな。 (節子) 彼女はうつになったり、治ったり、再びうつになったりしたそうね。乳癌になったのを契機に生まれた三つの局面がテレビで紹介されたことを思い出した。
うつ病になると、自殺しやすくなるそうだけど、どうしてなのかしら? なんとなく分かるけど、確信が持てるように具体例で理路線然と説明して欲しい。 (高哉) 岩手県の久慈は日本一の自殺率だそうだけど、この背景に「閉鎖的である ⇒ 偏狭な人間が多い ⇒ 人的交流をしない ⇒ 陥る窮地から脱出できない ⇒ うつ病になる ⇒ 自分の世界に閉じこもる ⇒ 臨機応変力が完全に失われる」ということがある。
(高哉) うつ病になると記憶機能だけではなく、胆力をも司っている脳内の海馬がダメージを受けるらしいから無理じゃないかな。うつ病患者に「頑張れ」という励ましの言葉は禁句であるのはこういう医学的な背景があるんだと思う。 (節子) 励ましの言葉が禁句であることは納得できるようで納得できない。ひしひし感じる孤独感が自殺に結びつきやすくなる。そして、うつ病になると、自殺しやすくなる。このこととどう整合させたらいいのかしら? 謎をかけられたみたい。 (高哉) 人生は苦しみが多い。にもかかわらず、人は生きようとするのはなぜなのか?…を考え抜くことによって謎が解けるんじゃないかな。 (節子) 楽しいことが先に待っているから苦しいことがあっても人は生きようとする。ところが、何らかの理由で楽しいことが先に待っていない絶望的な状態になるから「死にたい」となるんでしょうね。ということは「ひしひし感じる孤独感に陥る = 先に楽しいことがなくなる」とならなくてはならないけど、現実はそうばかりは言えない。というのは、孤独を楽しむことだってあるんだから。どのように頭の中を整理したらいいのかしら? (高哉) 孤独にも色々あるんだよ。独りで打ち込めるものがあったり、人の優しさや花の美しさを愛でる心の余裕があれば、孤独を楽しむことができる。こういう状態になれないと、絶望感に陥り、この気持に耐えられなくなって自殺してしまうんじゃないかな。 仕事の世界・家庭の世界・自分独りで楽しめる世界の三つがあって初めて人は健全に生き抜くことができるという格言はこういうところから生まれたと理解すべきだろうね。ところが、何らかの理由があると、自分独りで楽しめる世界を持てなくなり、これが楽しいことが先に待っていない絶望的な状態になってしまうんだと思う。 (節子) 「何らかの理由」とは性格の健康状態が極度に悪化する状態になることだと思う。というのは、こういう状態になると、自分の殻に閉じこもってしまい、二つの現象が生じるから。
うつ病になると、こういう状態になりやすくなるんでしょうね。さっきの貴方の説明を応用して考えるとだけど。だとすると、「うつ病になると、自殺しやすくなる」は当然のことよね。こういう理解でどうかしら? (高哉) ピンポン! 大当たりです。不幸にも自殺に至る状態を単純化して図式化すると、次のようになるんだと思う。 (心身にフレキシビリティーがなくなっている ⇒ ショックに耐える力がなくなっている) + (自分の殻に閉じこもっている ⇒ 視野が極度に狭くなっている。しかも、マイナス思考になっている) ⇒ 大したことでなくてもショックを受ける ⇒ 心身がぷつんと切れてしまう。 疲労困憊して心身にフレキシビリティーがなくなっている。視野が極度に狭くなっている。しかも、マイナス思考になっている。 ── こうしたことが忌まわしいことに結びつく。そして、この大きな原因となるのがうつ病であると思うんだ。 (節子) 「どうして視野が極度に狭くなるのか」が大事だと思う。うつ病になって自分の殻に閉じこもることだけが原因ではないと思う。子供は大人に比べて自殺に至るプロセスがずっと短いことを考えると、窮地脱出を可能にする斬新な着眼の有無も原因じゃないかしら? (高哉) 斬新な着眼の有無は自殺だけではなくうつ病になるかどうかに大きくかかわってくると思う。というのは、斬新な着眼があれば、うつ病に結びつく閉塞状態には陥らないからね。
(節子) 自殺の原因をより深く理解するために聞きたいんだけど、独居老人よりも家族と住んでいる老人の方が自殺者が多いのはどう解釈したらいいのかしら? (高哉) 独居老人は孤独を楽しむ術を知っている。一方、家族と住んでいる老人はそうなっていない可能性が大きい。その結果、次の図式にはまってしまっているからだと思う。
(老人自身が“濡れ落ち葉”のような存在になっている ⇒ 疎んじられやすい) + (家族は個性を大事にする人生を送ってきていない ⇒ 家族は老人の深層心理を理解できない) ⇒ 老人は家族から疎んじられてしまう ⇒ 自尊心が傷つき続ける ⇒ ストレスが溜まり続ける ⇒ うつ病症状になる。 日本の老人の不幸感は世界の中でも突出しているという調査結果があるそうだが、齢を重ねるだけのような生き方をしてきたことが“濡れ落ち葉”のような存在に結びついていることを忘れてはならないと思う。(打開策 ⇒ 『若々しい脳力復活支援』)
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