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(節子) 裕也君が性格に振り回されっ放しであったことはよく分った。子供は色々な警告反応のような信号を発するので、覚醒剤に手を出す前に「このままで大丈夫かな?」と思うようなことがあったはずよ。 (高哉) そうだね。前にも言ったけど、僕が小学校4年のとき担任の奈良橋先生が「大変なことを成し遂げるか、とんでもないことをしでかすか…のどちらかしかない。早く適当な指導者をつけて欲しい」と僕のことを通信簿に書いたものね。奈良橋先生は慧眼の持ち主だったので、警告反応のような信号を僕から感じっとったんだと思う。今考えるとだけどね。 彼の場合は発していたであろう警告反応のような信号に誰も気づかず、逆に自宅の地下室で覚醒剤パーティを自由に開くことに結びつく環境が与えられてしまった。自宅の地下室が自由に使えることが覚醒剤パーティに結びついてしまったのはどうしてだと思う? (節子) このことは『鬱積した欲求不満が覚醒剤吸引に結びついたのであろう』にあるので、こういうことに結びつけた他の原因を指摘しなければならないわね。彼は「バイクが怖くって乗れない」と言っている。したがって、自動車には乗れないはず。このことが関係しているのかしら? (高哉) 大いに関係していると思う。バイクが怖くって乗れないのは用心深い性格の持ち主だから。となると、自動車は運転しないだけではなく自動車にも気軽に乗せてもらうようなことはしないはず。となると、行動半径が狭くなる。しかし、甘やかされて育ったので孤独には耐えらない。こういう条件が自宅の地下室を仲間の溜まり場にすることに結びついたのかもしれない。 (節子) 行動半径が狭くなってしまったことは貴方が今言ったようなことに結びついただけではなく、視野の拡大を妨げ、これがやりがいのある仕事を見つけることを困難にすることにも結びついたはずよ。幅広い見聞効果が“刷りこみ効果”となり、これが「あっ、これだ!」となって、やりがいのある仕事を見つけることだってあるんだから。少年時代の米軍基地見聞が貿易のことを認識させ、これが高校卒後早々と貿易商への道を歩むことを可能にした人だっているんだから。 したがって、自動車嫌いが裕也君の人生の岐路にも結びついたとも言える。こういう問題意識で聞くんだけど、貴方も用心深い。ところが、自動車を運転できる。裕也君と比較してどういうことが言えるのかしら? (高哉) 僕も自動車の運転には興味がなかったけど、28歳で商社マンとしてインドに赴任して初めて現地で自動車の免許証を取得したんだ。当時のインドは日本と違って鉄道網は発達していない。しかし、イギリスが植民地して支配していたために道路網は吃驚するほど発達している。したがって、自動車の運転ができないと、とても不便。そこで、インドに赴任するまでハンドルすら触ったことがなかったにもかかわず自動車を運転できるようになったんだ。仕方なくだったんだ。 (節子) 貴方の今の話は教訓として使えるわね。必要不可欠な事項を実行に踏み切らせるには“踏み切らざるを得ない”立場に巧みに追い込まなければならい。いいかえれば、脳力・能力の進化に必要不可欠な挑戦に向かわせるには工夫が要る。前回の議論の結論は「性格無知 ⇒ 性格発の衝動強迫支配 ⇒ 楽ちん主義に耽溺…となったことに注目しなければならない」ということだけど、裕也はこの点どうだったのかしら? (高哉) 親が偉大である + 甘やかされて育ったので堪え性があまりない + やりがいのある仕事が見つかっていない ⇒ 「何としてでもやり遂げよう!」となりにくい──、という図式に陥っていたんじゃないかな。立派な親がロール・モデルにならない典型的な例だね。 (節子) 裕也君が覚醒剤を吸引するようになった原因は『鬱積した欲求不満が覚醒剤吸引に結びついたのであろう』にあるけど、性格との関わりでもうちょっと詰めたいんだけど、いいかしら? (高哉) 裕也君のような性格の持ち主は「バイクが怖くって乗れない」というほど用心深い。その反面、「これだ」と思うことは大胆な行動を採る。ゼロベースで考えるところがあるので、既成概念には殆どとらわれない。 (節子) 同感だなぁ。だから、「禁酒法の時代は酒を飲むことは犯罪だったという気持ちがある。幻覚症状が出たら止めればいいんだ」と言って、覚醒剤吸引を正当化していたのね。この性格は閉塞状態の日本の社会にあっては貴重な人物。勿体ない。どうして適切な指導者が現れなかったのかしら? (高哉) 僕達の存在を知らない限り極めて難しい。人の問題を扱う達人であり、かつ裕也君のことをよく知っている弁護士ですら彼のことをまったく理解できていなかったんだから。 (節子) 判決の前の晩はよく眠ることができなかった。判決の日に元気づけのためにてんぷらとビールを御馳走になったが、吐き気がした。 ── こういう裕也君の現象に対して、弁護士が「意外に悩むんだな」と言ったことを指しているんでしょ? (高哉) そうそう。裕也君のような性格の持ち主はさっき言ったような大胆さがある。ところが、「取り返しのつかのないことをしてしまった」という心理状態になると、無力感に襲われ、茫然自失の状態になり、貴女が今言ったような状態になってしまうものだ。貴女もよく知っているように置かれた状態が変わる度に別の性格の持ち主のようになってしまうのが人間だからね。 このことを認識しないと、大きな誤解を生み、適切に指導することは不可能になり、かえって事態を悪化させることだってある。(性格無知が大きな誤解を生む例 ⇒ 『孤独の賭け』から学ぶ)
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