若者の深層心理への適切な対処が企業を躍進させる(1)
― 大学新卒者の3分の1が3年以内に会社を辞める問題から考える〈1999/11/12〉
終身雇用制度がつい最近まで常識であった日本的経営に異変が生じている。リストラが横行しているというのではない。早い時期に雇用主である企業に対して三行半を突けつける、若者が増加している。なんと大学新卒者の3分の1が3年以内に辞めているのだ。
この異常事態を企業側はどのように受け止めるべきであろうか。大学生側に問題があるのであろうか。それとも、企業側に問題があるのであろうか。結論を先取りすると、大筋としては企業側に問題があるのだ。
製造業は生産能力の過剰に悩まされている。一方、市場性の高いサービス業は伸びきれていないどころか、廃業に追い込まれているところが少なくない。多くの金融機関は存続が危うくなり、公的資金の投入で辛うじて命脈を保っている。国全体としての資金効率が極度に悪くなってしまっている。
このようなわが国経済の実態を「他人事」として見過ごすことは許されない。なぜなら、このままの状態が続くと、国民年金の支払いができなくなるからだ。税収が減っている上に、国の支出が嵩み続けてきたために、国家財政が先進国中最悪の状態になっているのだ。
わが国企業が低迷を続けている。だから、わが国経済はこのような悲惨な状態に陥っている。このことをしっかりと肝に銘じなければならない。
世界経済がおしなべて不況であるのであれば、わが国の企業を責めることはできないが、事実はそうではない。インレフなき成長を長期にわたって続けている米国経済の背景には同国企業の躍進があるからだ。
このように言うと、「米国は内需が拡大しているから、同国の企業はその恩恵を受けているのだ」という意見が聞こえてきそうだが、この意見は正しくない。なぜなら、今やグローバリゼーションの時代だからだ。フランスの小さな小さなグルメ・チーズ屋の売上の55%はアメリカ向け。こんな事実があることを忘れてはならないのだ。
米国の企業が躍進を続けているにもかかわらず、わが国の企業が停滞を続けているのはなぜか。環境変化に対する適応力に差があるからなのだ。
ところで、「環境変化に対する適応力の不足は業績低迷のみに結びつくことであって、人事問題とは無関係である」と言えるのであろうか。「否」である。なぜなら、質の良い人材を採用し、採用した人材の能力を最大限に発揮させる。これができるかどうかが企業経営の成否を決める時代がやってきたからだ。企業経営における人的資源への依存度は急速に高まりつつあるのだ。
資本主義ではなく、「地本主義」である。このようなことが長らく言われ続けてきたが、地本主義ではなく、「人本主義」である。このように言い直さなくてはならない時代がやって来たのだ。にもかかわらず、旧態依然としている経営を行っている企業が多い。だから、敏感な若者は早い時期にこのような企業に対して三行半を突けつけているのだ。
企業にとっての環境変化があるのは今に始まったことではない。昔から環境変化があったのだ。にもかかわらず、昔は環境変化に適応でき、今は適応できないのはなぜであろうか。昔の環境変化は過去の延長線上を突っ走るやり方で通用できたが、今はそうはいかなくなったからなのだ。
したがって、昔の環境変化は趨勢変化(すうせいへんか、ちょっとした手直しで対応できる変化)、今の環境変化は構造変化。このように言うべきであろう。それでは、構造変化に企業が適応するにはどうしたらよいのであろうか。「新しい酒は新しい皮袋に」の格言を重視した企業経営を行わなければならない。さもなくば、環境の構造変化に伴って続々と登場してくる、企業の新成長機会を捉えることができなくなってしまうだろう。
新たに登場してきた成長機会を確実に捉えるためには、「慣性の法則」に支配されることのない人材の登用が必要。大学生側に仮に問題があるにしても、企業が生き抜くためには、新戦力としての彼らへの期待は大きいのだ。しかしながら、期待するだけでは片手落ち。それ相応の施策を講じなければならない。このような観点で展開するのが以下の論である。
1、早期離職者の深層心理を理解しよう
◎自立と自律の必要性が早期離職に結びついている
大企業ですらうかうかすると存続できない。存続できたとしても、これまでのような終身雇用を保証できない。にもかかわらず、今の仕事を続けることが有利に転職できる能力開発に結びつくとはとても思えない。年齢を重ねれば重ねるほど、再就職しにくくなるので、我慢して様子を見ることもしにくい。
若者が折角入社できた企業を早々と去ってしまう理由を総括すると、上記の通りとなることが少なくない。そして、このような意識を持った若者は「見所がある」と言わなくてはならない。鍛えれば、新時代の企業の中枢を担う人材に育つ可能性を持っているのだ。その意味で、企業は貴重な人材を失っていると言わなくてはならない。
「最近の若者は甘ったれているからなのだ」という意見があるが、若者にも反省すべき点があるのは事実であるとしても、この意見に与することは許されないのだ。
◎自分にしかできない仕事で達成感を味わいたい
達成感を味わえる仕事をしたい。工業型製品の製品技術が成熟化してしまった上、地球が狭くなったので、モノや見聞によってでは新鮮な感動を味わいにくくなった。したがって、新鮮な感動を得る対象としての自分自身がクローズアップするようになり、自分自身を楽しみたくなったのだ。
趣味に凝ったり、ピアスをつけたりといった具合に、自分自身の楽しみ方には色々ある。だが、一番多くの時間を費やすのが仕事。それに、全てにおいて「今を最高に生きる」ニーズが拡大している。なぜなら、エスカレーター人事の時代が終わり、我慢がペイしにくくなったからだ。となれば、達成感を味わえる仕事を望む若者が増えるのはごく自然の成り行きなのだ。
ところで、仕事で達成感を味わえたとき、「自分ではなく他の誰でもできたのだ」と思えることに、若者は満足するであろうか。「否」である。「自分がやったから初めてできたのだ」と思いこみたい若者が多いのだ。このような明確な意識を持った若者がなぜ増えたのか。少子化現象の中で大事に育てられてきたので、自己中心主義というかナルチシズムというか、そんなものが蔓延しているからなのだろう。
◎さりとて、自分流の生き方を貫き、独創性を発揮することもままならない
「何とかしなくては」と前向きのイライラした生活を送り続ける。「よしこれだ。なんとしてでもやり遂げよう」と思いこむ。このように思いこめるが故に、粘り強く所期の目的を達成できる。
自分流の生き方を貫き、独創性を発揮するためには、上記の「イノベーションのロジック」を自分自身の中に注入することに成功しなければならない。
ところが、意欲的であっても、このようなイノベーション実現のプロセスを歩みきることができない若者が多いのだ。なぜか。「何とかしなくては」と前向きのイライラした生活を送り続けた結果、離職するに至ったが、後が続かないからだ。
若いが故に適切な判断を下すに必要な知識が不足している。知識が仮に十分あるとしても、個人の前に大きく広がった世界が持ちこむ、行動の幅広い選択肢に戸惑い、「よしこれだ。なんとしてでもやり遂げよう」と思い込むなんてことは、とてもとても望めない場合がほとんどなのだ。
適切な行動目標が決まったとしても、粘り強い行動ができない場合が多い。なぜか。実社会においては事は円滑に運ばないことがほとんど。挫折してもへこたれない。臨機応変の行動をする。プラス思考して、状況対応する。
ぶち当った壁を乗り越えるためには、こんな創造的なたくましさが必要となるが、最近の若者はこの面での鍛えられ方が不足しているのだ。ナルチストではあっても、大胆な冒険心は育てられていない場合がほとんどなのだ。
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