若者の深層心理への適切な対処が企業を躍進させる(5)
― 大学新卒者の3分の1が3年以内に会社を辞める問題から考える
〈1999/12/10〉
6、個人ビジョン開発の支援は企業に想像を絶する効果を持ち込むであろう
◎事業並びにマネジメントの仕組み再構築のあり方のヒントが確実に掴める
専門家と学生の間で繰り広げられるビジョン開発のための質疑応答は、生々しいだけではなく、論理的に整理されたものとなるのであった。したがって、その結果は適材適所の実現に結びつくだけではない。質疑応答を傍聴できる企業側は次のような貴重な知識を得ることができるであろう。
世の中がどのようになぜ変わってきたか。この変化は企業にどのような好機と脅威をもたらしつつあるのか。どのようなマネジメントを採ることが、好機を確実に掴み、脅威を確実に逃れることを可能にするのか。そして、その中で、採用される若者はどのように扱われ、ベテラン社員である中高年はどのように変わらなくてはならないのか。
学生の個人ビジョン開発の支援は、当該企業の事業並びにマネジメントの仕組み再構築のあるべき方向を把握することをも可能にしてくれるのだ。適切な専門家を登用しさえすればであるが。
このように言うと、「適材適所実現のためのビジョン開発がどうしてこんなことを可能にするのであろうか」といぶかしく思われる向きもあるであろう。そこで、質疑応答を傍聴できる企業側が上記したような貴重な知識を得ることができるとする根拠を、以下簡単に説明しておこう。
学生の発言内容を洞察しさえすれば、世の中がどのように変わってきたかは自ずとわかること。かくして把握した世の中の変化を、世の中の変化が持ち込む好機と脅威を、順次きちっと伝えて始めて、学生は「こういう仕事に就いて、こういう能力を培いたい」という想いを具体的に持つことができるようなるであろう。(このようなことができる専門家を登用しなければならない)
就職に当っての学生側の想いが具体的になったならば、それを確認する。と同時に、「このようなマネジメントの中であって始めて、君の職業的願望を叶えることのできるようになる」という言葉を返さなくてはならない。なぜなら、これから待ち受けるであろうマネジメントの仕組みの大筋を認識して始めて、覚悟や安心が生まれ、しっかりした就職の心構えができるようになるからだ。(このようなことができる専門家を登用しなければならない)
◎企業人の構想力・独創力を強化する
学生のビジョン開発の支援を適切に行うことの副産物は上記したことだけに留まらない。登用した専門家が展開する質疑応答は「企業の知識創造力」を飛躍的に高めることに結びつくであろう。なぜなら、専門家が展開する質疑応答は問題解決型の会議のあり方、更には構想・独創の仕方の見本となる、小劇場の様相を呈するだろうからだ。
◎個人ビジョン開発支援を社内の人材にも適用しよう
これまでの論を読み、「学生のビジョン開発支援を早く試してみたいが、採用試験はほとんど終わってしまった。残念無念」と思われる企業が少なくないであろう。そこで、考えていただきたいことがある。
適用対象を学生だけに留めてよいのであろうか。創造型企業への転換を急がなければならない企業が多いことを考えると、来春の入社予定者のみならず、その他の人材への適用はペイして余りあるものになるであろう。
社歴のある人材の前述したような方法に基づくビジョン開発は「企業の再発見」を可能にしてくれる。こういう効用があることを強調しておきたい。
7、企業自身もビジョン開発をしよう
専門家と若者の質疑応答を傍聴することにより、企業側は「わが社ならではの、このような事業が可能である」と思わずひざをたたくことも頻発するであろう。だからといって、そのまま事業化するわけにはいかない。その他のアイディアも含めて、概念拡大と論理化を行う形で、企業のビジョン開発を行うべきであろう。
そして、マネジメントのあり方をもこのビジョンの中に入れたいものである。なぜなら、新しい労働価値観に適応したマネジメントの仕組みがなければ、魅力的な事業計画は画餅に帰するし、また、新たな魅力ある事業計画も生まれないからだ。
若者の個人ビジョン開発支援の成果を確実にするために留意しなければならない大事なことがある。「この仕事だ。なんとしでもやり遂げよう」と若者が想い込んでも、上司が旧態依然としていたら、若者の意欲は徐々に萎えてしまいかねない。だから、学生のビジョン開発作業の中で、「ベテラン社員である中高年はどのように変わらなくてはならないのか」を明かにするのであったが、これだけでは不十分。それ相応のマネジメントの仕組みに工夫がいるのだ。
長年染み付いた習慣からの脱却は可能だが、それなりに時間がかかる。これを待てれば良いがそうはいかない場合もあろう。「チャンスは後ろ髪のない禿坊主のようだ」の格言が重みを持つ時代がやってきたからだ。
それではどうしたらよいか。ベテラン社員である中高年の態度変容を待ち切れない場合は、適切なコンサルタントを指導者に登用して、若者だけから構成される子会社や事業部門を設立し、企業全体を革新するための起爆剤にするのもひとつの方法であろう。
学生や社内人材の個人ビジョン開発の支援が企業の環境変化への適応のエネルギーを与えてくれる。そして、企業ビジョンの開発がこのエネルギーの完全燃焼を可能にすることを、以上の説明により十分にご理解いただけたことであろう。
最後に一言述べたい。グループ別の集団面接方式を採用するにしても、どっと応募してきた学生一人一人に対して個人ビジョン開発を支援することに耐えられない企業もあろう。その場合は、インターネット上で適材適所実現のためのシミュレーションができる仕組みの開発が必要になろう。
このシミュレーション・モデルの開発はモデルの内容いかんによっては十分にペイするものになるであろう。なぜなら、学生の本音、世の中の変化を掴むことを可能にするモデル開発は可能なはずだからだ。(完)
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