【斬新な着眼】
シリーズ「日本を復活させるためにはどうしたらよいのか? 本格的な共同市場に参加するしかない!」は2003年12月27日から2004年3月15日の間に掲載しました。以下のコンテンツは当時のままになっていることを念頭に置いてお読みください。
通貨危機に襲われたアジア諸国に対する米国財務省・世界銀行・国際通貨基金の三者が「財政縮小」「民営化」「市場自由化」を強行して、失敗に帰した。一方において、中国は独特の経済運営を行い、成功を収め続けている。 ── これが何よりの証拠です。 文明Aの国と経済交流することが文明Bの国にとっての唯一の生き延び策であったとします。こういう場合は、「A・B両国はAのルールにしたがって頻繁に交流する ⇒ Aのルールに基づく思考・行動がBの新しい習慣になる」という図式成立の可能性があります。 但し、AのルールがBの伝統的な価値観に反するものですと、「Bが繁栄するようになる ⇒ 自分達固有のものが繁栄をもたらしたのだ、とBは思い始める ⇒ Aへの反発という旗印の下にBは結束し始める」という図式が鎌首を持ち上げてきます。 人間は自尊心が強く、自尊心は本源的なものに向かいがちであることを忘れてはならないのです。米国の力をも借りて経済的に繁栄するようになった韓国の強い反米感情が良い例です。 このように考えると、地域主義は世界経済統合の妨害に結びつきそうです。果たしてそうでしょうか?
話を価値観問題に戻します。経済運営ルールを始めとする価値観・習慣が似た国同士であれば、共同市場の形成は成功できるのでしょうか? 「否」です。なぜなら、政治体制を異にする国が経済的に融合するためには、欧州共同市場がそうであるように、 「共同市場形成以前から円滑な交流が行われている」「強力な指導力を発揮できる国が存在している」── の二つの条件が必要だからです。 ということは、イスラム世界には共同市場を形成できる条件が揃っていないことを意味します。なぜなら、イスラム世界は三つの特徴を持っているからです。 (特徴1) 同じイスラム教でも宗派が異なる。国境線が人工的に決められた──、という二つの条件が重なってアラブ世界においては国家間の対立が激しい。 (特徴2) アラブ人はファミリー志向が強いので、部族としてのみしか結束しない。したがって、国民の国家への忠誠心が低い。イスラム教の特徴であるネットワーク志向が国内ではなくイスラム世界横断志向に結びついている──、という二つの条件が重なって、強力な国家が生まれにくい。 (特徴3) 由緒あるトルコはオスマン・トルコ没後、西洋志向を強めたので、他のイスラム世界からの信頼が不足している。したがって、同国がイスラム世界をまとめるのは容易ではない。 イスラム世界がこのようになっていることは世界の大きな不安定要因と言わなければなりません。なぜなら、二つの事実があるからです。 (事実1) 先進国とイスラム世界の人口が2050年に拮抗することが予測されている。
(事実2) イスラム教は決着が付くまで戦い抜くことを奨励している。
価値観を異にした国や人々の経済的融合を実現させることを可能にする突破口がありそうです。但し、可能性にしか過ぎません。果たして具体策はあるのでしょうか?
しかしながら、アメリカ主導で進められているイラクの改革が失敗したならば、アメリカ流の経済運営に対する信用を失い、上記共同市場構想は頓挫することになるでしょう。そして、大きな不安材料の存在を考えると、その危険性は大きいのです。 (不安材料1) イラクは内戦抑圧の重石が取り払われた状態にある。 戦後の植民地政策から生まれた人工国家で、融和が困難なシーア派、スンニ派、クルド族、しかも、それぞれの内部はファミリー志向の強い数多くの部族によって分断されている。この分裂国家をフセイン政権の恐怖政治により辛うじて統一が保たれてきた。ところが、今や束ねるための箍(たが)が存在しない。 ── これがイラクの実態なのです。 (不安材料2) イラク人の多くは誘われると容易にテロリストになる。 「日本の部隊(自衛隊)は日本の企業を連れてくる」「大勢の人を雇うらしい」。陸上自衛隊先遣隊が派遣されるイラク南部サマワでは、失業に苦しむ市民の間で過大とも言える期待が膨らんでいる。6日には約240キロ離れた首都バクダットからうわさを聞きつけた大勢の求職者がバスで乗りつける騒ぎになった。 上記の2004年1月10日付け「朝日新聞(朝刊)」にあるように、イラクの一番の悩みは失業問題で、これは「食えない ⇒ 不満を占領しているアメリカに向ける」という図式に容易に結びつく危険性を孕んでいるのです。 (不安材料3) 米国が財政負担に耐えられないかもしれない 米国の03年度(02年10月〜03年9月)は前年比2.4倍の3742億ドルに達した。そして、04年度には5千億ドルに達することが予想されている。(過去の最高額は92年度の2900億ドル) ── この背景には、870億ドルにのぼるイラク復興関連予算があることを忘れてはならないのです。
(不安材料4) 共同市場の形成が緒に就かないかもしれない ラテンアメリカはメキシコの北米共同市場(NAFTA)を見て、16%の人しか市場経済に満足していない。メキシコ人自身ですらNAFTAの経済効果に対するプラスの評価が93年11月の68%から03年の45%に低下している。この背景に功罪半ばの具体的数字の実績がある。
パンドラの箱を開けてしまったような状態になっているイラク問題は新しい考え方に基づく地域主義を推進して解決するしかない。しかしながら、上記「四つの不安材料」がある。これ以上の立ち往生状態を探すのは容易ではありません。 構想力・独創力の抜本的強化のために、また独自のチャンス発見のために、みなさんが立ち往生からの脱出・躍進の事例研究のテーマとしてこの問題に取り組み、その結果を次回以降の「斬新な着眼」とすり合わせることを期待しています。
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