【斬新な着眼】
人間の深層心理をとことん理解しよう! ― 人間の複雑な心を名作映画から学ぶ
2007.1.7 |
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夫婦はどうあるべきであったか? |
(節子) 今の話は説得力があるわねぇ。奥さんのロビン・ネビンだったらコリン・ロジャースに対して似たような助言できたかもしれないわね。彼女は出版社の編集者なんだから。どうして彼女は適切な助言ができなかったのかしら?
メルボルンからシドニーに引越しが決まった時の「貴方(夫のコリン・ロジャース)は私達の意思を結局は無視するのね」という彼女の捨て台詞のような発言に帰着するのかしら?
そうだとしたら残念だわねぇ。相補える理想的なカップルなのに。
(高哉) 不愉快な想いをさせられた。理解されないかもしれない…といったようなほんのちょっとした心の隔たりがあると、思いついたことを次々と助言するようにはならない。こういうことってどんな人間にもあるでしょう?
だからなんじゃないかな。人間の心理は微妙なんだよ。
僕にも色々経験があるよ。何かの拍子に「このままじゃ、あいつ危ないな」とひらめいたことを率直に相手に伝えない。そして、危惧していた通りになってしまってから「あの時にちゃんと言っておいてやればよ
かったなぁ」と思うことってよくあるよ。
(節子) それって一般論としては納得できるけど、この夫婦には当てはまりにくいんじゃないかしら? だって、夫のコリン・ロジャースは脚本家としての職業が培った習慣があるから本音を聞き出すのが得意なはずよ。
(高哉) 二人共別々の世界にのめりこんでしまっているんでそんな心の余裕がなかったんじゃないかなぁ。夫は新しい仕事と美女にすっかり心を奪われてしまっている。一方、妻は発掘した原住民である黒人女流作家の売り出しのことで夢中になってしまっている。こういう状態じゃ無理だよ。
(節子) それはちょっと違うんじゃないかしら。夫のコリン・ロジャースはそんな状態であっても二人の子供の本音をよく聞き出していたじゃないの。
奥さんのロビン・ネビンが外出先から帰ってくると子供達はさっと逃げ出してしまうシーンは印象的だったわよ。「普通の家庭とは逆だなぁ。子供達はお父さんとだったら何でも話し合えるんだなぁ」と思ったのよ。
(高哉) 奥さんと子供とでは違うよ。子供に対しては「未熟だから教育しなければならない」という義務感がある。新しい仕事と美女にすっかり心を奪われてしまっていても常に心に引っかかっている。ところが、奥さんに対してはそういった類の義務感はない。甘えたい気持ちの方が強い。したがって、奥さんの本音を聞き出そうとする努力はしない。
(節子) 夫にとって子供よりも妻の方が大事な存在じゃないの? そうじゃないとしたら淋しいな。
(高哉) 妻は世界で一番大事な存在だよ。でも、元は他人。それに男と女は根本的に違う。ごく自然に努力しあう関係にする。いいかえれば、情緒一体感が保たれるようにすることが必要だと思うんだ。努力を意識し続けると疲れちゃって長続きしないけど、情緒一体感があれば躊躇することなくひらめいたことを相手に伝えることができるようになるからね。
(節子) そう言われてみると、この夫婦は情緒的に一体化していなかったわね。二人ともこっそりと浮気しているんだもの。それに、夫のコリン・ロジャースが子供達のことを相談すると、本の編集の仕事が大成功路線に乗っている妻のロビン・ネビンは「今度は私の番ね」「仕事のことで頭が一杯だから、家のことは話さないで」と言い出す始末。
どうしてこうなっちゃったのかしら? なんとなく分かるけど、理路整然と整理してくれないかしら?
(高哉) 金と名声を手に入れることが目的の脚本家気取りのマイク・キャビンのような人物と共同事業をやるようなことになった。のみならず、二人が浮気しあうようなことになってしまった図式を描いてみればいいんじゃないかなぁ。
芸術性が評価されながら人気が出ない仕事の状態が夫に続いていた (夫はイライラを感じざるを得なかった) + 夫は人生の先が見える年齢に達してしまった
(焦りを感じざるを得なくなった) + 夫婦関係がマンネリ状態になってしまった (妻はイライラと焦りを解消できる存在ではなくなった) ⇒ 夫は強い衝動の下でシドニー移住を決行した
⇒ 妻は夫に対して強い不満を抱くことになった (仕事に傾斜する心理状態になった) + 原住民である黒人女流作家とパーティーで出会い、その才能に惚れ込んだ
⇒ 彼女を売り出す仕事にのめりこんでいった ⇒ 自分に対して強い不満を抱くようになった妻に対して不快感を覚えた (他の女性の誘惑を受けやすい状
態になった) + パーティーで出会った美女から誘惑された ⇒ 自尊心が満たされ、妻がつまらない存在になってしまった
⇒ 情緒一体感を妻と分かち合えるような状態ではなくなってしまった ⇒ 馴染みの映画プロデューサーに新作の企画を売り込んだが袖にされてしまった
(自分でプロデューサー役をも担う心が芽生えた) + 金と名声を手に入れることが目的の脚本家気取りのマイク・キャビンと出会い、脚本・映画制作の両方を共同でやることになった
⇒ 悪戦苦闘の日々が続いた ⇒ 仕事が大成功路線に乗った妻に嫉妬心を感じるようになった。
夫婦間の情緒一体感の余地がなくなってしまった。その上、夫が妻に対して嫉妬心を覚えるような状態になってしまったとなれば、妻が夫に対して真剣になって助言する、あるいは夫が真剣になって妻の助言を求める関係を望む方がおかしいよ。
(節子) 理路整然とした説明、ありがとう。よく分かったわ。妻のロビン・ネビンは夫のコリン・ロジャースの引越し計画に対して単に反対するのではなく、夫の引越しの動機を洞察して夫婦関係を再構築すべきだったわね。引越しのような大事を思いつきで決行することを考えたりしないんだから、奥さんはうかつだったわね。
でも、ひとつだけ質問があるの。奥さんが仕事を持って成功することが夫婦関係をおかしくすることは避けることができないのかしら?
誰だって人生の主役を演じたいものよ。そして、主役を演じることの醍醐味は成功して世間に認められることでしょ。そうなってしまうことの先に夫婦の不和が待っているなんてとてもじゃないわよ。
(高哉) 片方が女性だから表現は適切ではないけど、「両雄相並び立たず」とならないようにするにはどうしたらよいか?──、という問題だよね。片方が一方的に成功すると巧くいかなくなる理由を図式化してみればいいんじゃないかなぁ。
成功路線を歩む ⇒ 新しい世界が生まれる ⇒ 新しい生活リズムが生まれる ⇒ 二人の間が疎遠になる。
この図式をしっかりと頭に入れて置けば、問題は未然防止できると思うよ。但し、お互いになくてはならない存在になることが大前提だね。なぜなら、こういう関係が確立されれば、
お互いに相手の感情を損なわないように細心の注意を払うようになるはずだからね。夫婦が目指すべきは「貴方の幸せは私の幸せ。私の幸せは貴方の幸せ」となるような関係作りだと思うんだ。
お互いになくてはならない存在になる。と同時にお互いに相手のファンである──、という関係を保ち続ければ、こういう関係は自ずとできるんじゃないかなぁ。夫婦円満の関係を続けるためには、21世紀型ビジネス成功への道を念頭に置いた努力が必要なんだよ。そのためには夫婦共通のビジョンを持つことを勧めたい。

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