10. 事業展開シナリオの持つ様々な効用──定量化偏重を止めて変化適応力
　　　 を強化しよう！──

問 さっきの事業展開シナリオでは事業化のタイミングを決めましたが、今の需要量の話からも明らかなように、計画的に事業を展開できるものではありません。にもかかわらず、事業展開シナリオを策定しなければならないとする理論的根拠をご説明願えないでしょうか。成り行き経営に慣れた人からかなり反発が予想されますので。

答 新規事業開発を手段に用いて事業構造を変えたいと思っても市場ニーズや競合企業の存在を考えますと、新規事業開発は思い通りにいくとは限りません。しかし、事業構造を変えたいのであれば、信念にまで高めた目標設定が必要です。なぜなら、「よしこれだ。なんとしてでもやり遂げよう」と思い込めば、手足が目標に向かって自然に動くからです。

　しかし、到達目標と現状の差が大きすぎる場合は得意技を使いつつ段階的に行動できるようなアクションプランを策定しなければなりません。「自分でもやれそうだ」と思ってはじめて挑戦行動が具体化するものだからです。先ほどの「総合検診システム」の例にはこのような配慮がなされていたことを思い出して下さい。（関連記事 ⇒ 『成長分野に成功裡に進出する秘訣 ／ 総合的統合戦略』2012.10.4追記）

　それから、事業展開シナリオが関係者の頭の中に入っていますと、環境変化をしっかりと認識できるようになります。オートバイと軽四輪自動車しか扱っていなかった本田技研が巨大な先発企業が存在する普通四輪車市場への進出に成功できた経緯がいい例です。

　「普通四輪自動車部門にどうしても進出したい」という強烈な思いこみが本田技研にあったからこそ、「自動車の普及→公害問題の深刻化→日本版マスキー法の施行」を先読みすることができ、他社に先駆けて、待ち伏せ的に低公害車の開発に踏み切ることができたのです。旺盛な問題意識を持って初めて世の中を支配する新しいロジックに逸早く適応できるようになるのです。（2012.10.4追記）

　事業展開シナリオの効用は今申し上げたこと以外に二つあります。企業の将来目標に沿った開発行動を誘導できること、これがひとつです。こういうものがないと、成長性と波及性の低い新規事業開発が行われ、「着眼は良かったが、強力なライバルに遭遇し、敗退」といったことを繰り返し、駄目な企業になってしまいます。（関連記事 ⇒ 『企業成長の新しい四条件』2012.10.4追記）

　企業の将来目標に沿った開発行動を誘導できても多数の新規事業のアイディアが出てきた場合、スクリーニングと優先順位の問題が出てきますが、事業展開シナリオをこの際の評価基準に使えますので、コンセンサスが得られ易くなります。これがもうひとつの効用です。

　以上の説明からお分り頂けましたように、事業展開シナリオの策定は、後発企業が既存市場に進出して成功するために必要不可欠な隙間市場開発を成功させるための有効手段になるのです。

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