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【斬新な着眼】
(高哉) 「習慣の壁を乗り越える方法は心理学にはない」は間違いだ。タイムリー性に工夫を凝らすことができさえすれば、習慣の壁を乗り越えることに結びつく改革を行い、様変わりした環境に適応することができる。僕は何度も実証してきているからこのことを断言できる。 (節子) 染み付いた習慣の壁を乗り越えることができるんだったら日本経済はとっくに再生できているんじゃないかしら? あのダイエーだって実質的に倒産しなくてもすんだはずよ。間違っていたら直して欲しいために言うんだけど、ダイエーの経営が躓いた原因は大きく分けて三つあると理解しているの。 原因1: 日本独特の「土地本位制」の永続を信じて土地を買いあさって店舗網を広げた。ところが、バブルが崩壊して土地価格が下がり、返済困難な巨額の借金が残された。 原因2: 神戸市に初の総合スーパーを開店した時のキャッチフレーズである「リンゴからダイヤモンドまで」の幅広い品揃え路線を更に広げるかのように外食・ホテル・プロ野球の経営を行うまでになった。 ところが、消費ニーズが個性化したために「品揃えの広さ」ではなく、「品揃えの深さ」が必要になった。したがって、「中途半端 = 弱い競争力」となり、赤字が拡大した。 原因3: 「低価格 = 強い競争力」が有効であった時代背景の下に、大量仕入れ・大量販売という画一的な商品政策を採用して小売業ナンバーワンの地位を確立した。 ところが、「先進国へのキャッチアップ志向 ⇒ 量における物質的豊かさの追求 ⇒ 工業における量産・量販の追及 ⇒ 農産物における質よりも量の充足主義蔓延」という図式が通用しなくなり、競争力を急速に失ってしまった。 (高哉) 非常に大事なことがひとつ抜けていることを除いてよく整理したと思う。中内さんという偉大な人による鶴翼型支配の経営を行っていた。中内さんの経営判断に盲点がなければ、こういう経営方式は即断即決を可能にするので、環境変化に逸早く適応できる。 ところが、中内さんの情報ゾーンは偏りがある上に、固定化されていた。したがって、鶴翼型支配の経営は盲点の多い経営に結びついてしまった。「非常に大事なことが抜けている」と言ったのはこのことなんだ。 (節子) 今の説明を聞いてもうひとつ大事なことがあることに気づいたわ。中内さんはスーパーワンマン経営者だからタイムリー性に工夫を凝らすなんてことは夢のまた夢ね。 (高哉) スーパーワンマン経営者ではなくても「習慣の壁を乗り越える方法は心理学にはない」を是認することになってしまう経営者はいるよ。僕が間接的に知っているある経営者なんだけど、「職業別の電話帳があれば新規事業の開発なんか簡単だ」なんてことを豪語して痛い目に遭ったんだ。 (節子) 成功におごって勉強をしないために、「市場が未成熟である ⇒ 模倣型の事業展開が可能である ⇒ 職業別の電話帳をチェックリストに用いて新規事業開発案件を考え出す」ということがいつまでも通用すると錯覚したのね。 (高哉) 話は変わるけど、環境変化には目に見えないものと見えるものとがある。ダイエーの経営破綻に結びついた消費者の質的変化が見えない環境変化の代表的な例。この識別は「あの時がそうだった」といったように後で分かることが多い。したがって、この種の環境変化を逸早く認識することはなかなか難しい。 (節子) 目に見える環境変化って高速道路ができたような環境変化を指すのでしょ? このような環境変化は誰にだって分かるけど、広い視野が可能にする推論が必要だから影響を読みぬくのはそう簡単ではなさそうね。「風が吹けば桶屋が儲かる」という例え話ですら次の図式が前提になっているのだから…。 疾風が吹く ⇒ 埃が大散布される ⇒ 盲目者が増える ⇒ 三味線弾きが増える ⇒ 猫皮の需要が拡大する ⇒ 猫の数が減るので鼠の数が増加する ⇒ 桶被害が増加する ⇒ 桶屋ビジネスのチャンスが拡大する。 (高哉) 今言ったような連想が仮にできたとしても、「磐石な地盤を築く ⇒ 楽をしながら名声に包まれる ⇒ 居心地がいいので動きが鈍くなる ⇒ 環境変化の連鎖反応に手を拱くことになってしまう」という図式の餌食になってしまうことがある。・・・・・水しぶきを上げて木曽川急流を舟で下る「日本ライン下り」なんかがそうだよ。 最盛期には年間50万人あった顧客数が減り続けて6万500人まで落ち込んだそうだ。だもんだから2003年3月に解散することになってしまった。その後、復活したけどね…。 (節子) 木曽川急流を舟で下る「日本ライン下り」って名鉄グループの観光施設でしょ? 鉄道利用客を増やすことに結びくんだからそんなに簡単に止めるような事業ではないんじゃないかしら? どんな事情があったのかしら? (高哉) 「日本ライン下り」のメリットは岐阜・下呂温泉で宿泊して、30人~50人が同じ船に約1時間乗って日本ライン下りを楽しめることにあるんだけど、こういうことを求めるお客さんが少なくなってしまったことに大きな原因があるんじゃないかなぁ。 (節子) そうか、団体旅行の時代ではなくなったものね。観光だって個性化の波が押し寄せているんだから仕方がないわね。 (高哉) 団体旅行の時代ではなくなったこともあるけど、もうひとつ重要なことがある。時間多消費型の観光が嫌われたこともあるんじゃないかなぁ。今の人ってやりたいことが沢山あるでしょ。だから、時間がかかりすぎるレジャーはついつい敬遠されがちになる。 僕だってそうだよ。海釣りが大好きだけど、一日がかり、場合によって一泊二日になってしまう。だもんだから、もう20年近く海釣りに行っていない。 (節子) 海釣りの話は納得できたけど、時間多消費型の観光が嫌われるようになったことが「日本ライン下り」の人気を奪うことに結びついたという話には納得できないわ。 岐阜・下呂温泉で宿泊してちょっと割高になっても約1時間乗って日本ライン下りを楽しみたいと思う客はいるんじゃないかなぁ。自然の景観に恵まれた中でのレジャーは大都会の人にとって捨てがたいと思うの。 (高哉) ライバルが現われなければそういうことも言えるかもしれない。ところが、目に見える環境変化が発生したために強力なライバルが登場してしまった。 道路等の交通事情が変わって風光明媚な中部奥の飛騨高山や白川郷等が日帰り観光地として脚光を浴びることとなり、結果として時間多消費型観光が嫌われるようになったんだ。 必需性の低い消費需要は移ろいやすい。選択肢が増えた。 ── この二つが結びついて欲求が贅沢になり、時間多消費型観光が嫌われるようになった…と理解する必要があるかもしれない。 (節子) 今の話は大事だから整理しようっと。「日本ライン下り」が解散になった仕組みを図式化すると、次のようになるのかしら? 市場が成熟して団体で観光旅行するニーズが減った + 人間の欲望が多様化して日帰り観光ニーズが増えた ⇒ 風光明媚な中部奥の飛騨高山や白川郷等が日帰り観光地として脚光を浴びることとなった ⇒ 時間多消費型観光が嫌われるようになった ⇒ 岐阜・下呂温泉で宿泊して、30人~50人が同じ船に約1時間乗って日本ライン下りを楽しめる「日本ライン下り」のメリットがなくなってしまった ⇒ 最盛期に年間50万人あった顧客数が約6万500人まで落ち込んでしまった。 (高哉) うまく整理したね。プロ野球の観戦とホテルでの食事が競合関係にあるようにライバル関係は複雑に入り組んでいる。その上、技術革新等の異変が次々と起きる。 こういう時代を生き抜くためには「こうなったらこうなる」「ああなったらああなる」といったように盲点を極力少なくするためのシミュレーションを怠ってはならない。「日本ライン下り」の解散・再生劇はこういう教訓を残してくれたんじゃないかなぁ。
(節子) 「こうなったらこうなる」「ああなったらああなる」といったように盲点を極力少なくするためのシミュレーションを行うことの重要性は分かるけど、シミュレーションの枠組みが問題になるんじゃないかしら? (高哉) そうだね。アジア太平洋戦争に突入して大惨劇を残して敗北したり、無駄な公共投資を拡大させて財政を破綻させたりしたのも国家指導者の思考の枠組みに問題があったからだものね。 (節子) でも、「かくかくしかじかのことをかくかくしかじかのように行わなければならない」といったことに結びつくビジネス・モデルのような思考の枠組みは必要ね。英才といえども常に頭脳の調子が良いとは限らないし、大勢の人間を束ねていくためには共通規範が欠かせないから…。 (高哉) ビジネス・モデルの哲学のような説明を聞かされたけど、まったくその通り。でも、このビジネス・モデルを臨機応変に見直さないと大変なことになる。映画配給会社「ギャガ・コミュニケーション」なんがそうだよ。 この会社は藤村哲也氏が1986年に設立。創造性の高い経営手法により躍進を遂げ、2001年には株式を上場するまでに至り、拡大路線を突っ走った。・・・・・事業環境が激変。ところが、経営手法を相応しく変えなかったために債務超過に陥り、有線ブロードネットワークスに2004年12月に買収されることになってしまった。 (節子) ギャガ・コミュニケーションって『スターウォーズ』等を次々と大当たりさせた映画配給会社でしょ? こんな会社がどうして債務超過に陥ってしまったのかしら? (高哉) 一発勝負を狙う大博打的要素が強い。こういう映画ビジネスの特徴が災いしたんだと思う。 (節子) そういうギャンブルビジネスをうまくやるノウハウがあったからこそ躍進を続けてきたんでしょ? この種のノウハウは仕事の経験を積むことにより洗練されるはず。したがって、「映画ビジネスの特徴が災いした」という説明には納得できないわ。 (高哉) 社会が成熟するにつれて「脱日常感に浸りたい」「のめりこめるような感動に浸りたい」という欲求を持つ人が増える。映画はこのような欲求に応えることができる絶好の存在だった。ということで、映画を始めとする娯楽市場が拡大し、次第に成熟していった。 (節子) そうか。となると、突出性を出すために映画制作費は巨額化せざるを得ないわね。そして、制作費の巨額化現象は次の図式に自ずと結びつくわね。 製作される映画の数が少なくなった+ DVD・衛星放送・ブロードバンド回線の普及が版権ビジネスを拡大させた ⇒ 売り手市場傾向が強くなると共に映画作品が青田刈りされるようになった ⇒ 映画の買値・宣伝費が高騰して映画配給事業の損益分岐点がぐんと高くなった。 (高哉)その通りだと思う。売り上げ百数十億の会社が一作品で二十何億円の投資をするようになった。しかも、2001年の株式上場が増収増益期待圧力を生んだ。その結果、取り扱い作品が増えることになった。ギャガ・コミュニケーションはこういう状態に追い込まれるようになったようなんだ。 (節子) ノウハウは減るものじゃないから取り扱い本数が増えたってどうということはないんじゃないかしら? (高哉) ところが、「一本一本丁寧にマーケティングできなくなった + 会社内で劇場を取り合うようになった ⇒ 売れないババ引きの作品を生むようになってしまった」という図式の罠に嵌り、その結果、2期連続の大幅赤字で債務超過になってしまったようなんだ。 (節子) 今やっていることに夢中にならないと火事場の馬鹿力のような瞬発力が生まれない。ところが、夢中になればなるほど先を読むことができにくくなってしまう。こういう人間らしい失敗劇ね。人心を一新して経営路線の見直しを行うことができなかったのかしら? (次号に続く)
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