成熟市場を勝ち抜くためには個性的ニーズへの合理的対応を(その2)
― フランスの化粧品小売チェーン店・Sephoraの革新的経営から考える〈1999/10/29〉
2、購買行動の最適化を支援する
顧客を圧倒的に惹き付けても、顧客が自らの購買行動の結果に満足しなければ、企業は長期にわたって繁栄することはできない。それでは、顧客はどうすれば自分の購買行動の結果に満足するのであろうか。
化粧品販売における百貨店方式を採用しないのであれば、「ああでもない、こうでもない」という試行錯誤を最大限行わしめることしかないであろう。メーク落としの綿などをも用意して、ビデオを使ったシミュレーションを、顧客自らが行えるようにする。Sephoraのニューヨークの5番街店はこういうやり方でこの問題に対応している。
化粧品のような感覚商品の場合は、ビデオを使ったシミュレーションが相応しいが、このやり方が全ての業界に通用するものではないのは言うまでもない。自分の価値観から見たコスト・パフォーマンス最大のレジャーをしたい場合は、コンピューターを使ったコンサルティング・プログラムを開発するなど、商品特性に合わせた、顧客のシミュレーション支援が必要になろう。
3、高付加価値経営を実現させる
顧客を圧倒的に惹き付ける。購買行動の最適化を支援する。この工夫を凝らすことに成功し、顧客が「これだ」という商品を見つけることができても、そのような工夫を凝らしたところで商品を買ってくれないと、企業は高いコストを回収できず大変なことになる。インターネットで低価格品を探せる時代がやってきたので、こうしたことへの配慮は不可欠であろう。
プライベート・ブランド商品のウェイトを拡大させることにより、Sephoraはこの問題に対応しているとも言える。しかしながら、これだけでは不十分だ。なぜなら、Sephoraのプライベートブランドの割合は増える傾向にあるとは言え、8%にしか過ぎないからだ。
それでは、Sephoraはこの問題にどのように対応しているのであろうか。「これだ」と思える商品を発見するまで十分にシミュレーションさせる。圧倒的な品揃えで十分に買い回りさせる。こういうことで時間を消費させ、バーゲン・ハンティングの時間とエネルギーをなくさせる。そして、この種の商品はその店で買い物するように習慣付ける。こういうことで、対応しているのではなかろうか。
以上のような高付加価値化の工夫を凝らしても、モノの店舗販売業には自ずと限界がある。いわゆるニュー・エコノミーとは違う宿命があることを認識しなければならないのだ。
お金や情報を商品にする企業は限りない省力化が可能であるので、情報技術を使うことにより、生産性を限りなく向上させることができる。しかも、インターネットを使えば、人手をかけずにマス・マーケティングが可能になる。したがって、従業員の高収入が可能になるので、知識や智恵の時代に不可欠な有能な人材を採用しやすい。
一方、モノの店舗販売業は商品の陳列やレジなどで人手が否応なく必要となる。したがって、経営の合理化をどんなに行っても、生産性の向上には限界があるので、ニュー・エコノミーのような賃金を従業員に支払えない。しかも、ニュー・エコノミーの市場は一段と拡大する可能性が強い。
ニュー・エコノミーとモノの店舗販売業の上記比較は何を意味すのか。モノの店舗販売業が現状路線を歩む限り、良質の人材不足から来る、限界企業への道が待ち受けている可能性が大である。
だが、モノの店舗販売はなくならない。したがって、モノの店舗販売業は生産性革命に成功したところしか生き残れないであろう。ニュー・エコノミー隆盛の時代を向えて、モノの店舗販売業は革命前夜なのだ。
店員一人当たりの販売利益を大幅に引き上げる。これがモノの店舗販売業の生産性革命が目指すところ。取扱商品構成をがらりと変えるなど、色々な対策が考えられるが、インターネットを使った販売活動に乗り出すことは避けることができないであろう。
モノの店舗販売業者がインターネット小売業の乗り出すことは現在取り扱っている商品の販売効率を飛躍的に向上させるだけではない。店舗販売業では考えられないような顧客数の確保に成功したならば、インターネットならではの取引の自動化技術を使った、様々なビジネスが可能になるであろう。
ケーブルがなくても使える。肌身離さず持ち運べる。こんなメリットがあるために、携帯電話は世界中所狭しとばかりに猛烈な勢いで普及しつつある。そして、この携帯電話はインターネットと結びつきつつある。こういう地殻変動的な環境変化を、モノの店舗販売業であっても見過ごしてはならないのだ。
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