自分に不利な交渉の流れを変える方法(その3)
― 台湾の「二つの中国」宣言問題を考える〈1999/9/10〉
◎中国の経済事情が台湾に対する武力行使を許さない
中国の政情はきわめて不安定な状態になっている。なぜなら、社会統合の役割を担ってきた共産主義に対する国民の信仰がなくなったところに、深刻な失業問題が発生しているからだ。中国経済の躍進を支えてきた外国からの投資並びに輸出の減少がある上に、国有企業のリストラなどの経済改革が加わり、中国経済は縮小傾向を示しているのだ。
したがって、中国政府はなんとかして経済を再び成長路線に乗せたいところ。この想いは政権を担っている改革派に特に強い。
このような時に登場してきたのが、大中国(中国本土/台湾/香港)のNASDAQ版とでも言うべきGEM(Hong Kong Grouth Enterprise Market)。この証券市場の特徴は次の通り。実績がなくても、事業計画に魅力があれば、株式の上場が認められる。但し、四半期毎に45日以内に業績を公表しなければならない。実績よりも企業の将来性を買う代わりにほぼ計画通りの業績をあげることを求めると言うわけだ。
台湾の企業は元気が良いだけに事業規模の拡大意欲が強いが、台湾は狭すぎる。この壁を破るためには、工場建設などで中国本土への進出が必要不可欠。ところが、これがままならない。なぜなら、総資本の20%以上を中国本土に投資することが禁じられているからだ。
ところが、台湾企業が香港に子会社を設立し、この子会社が中国本土に投資をするのであれば話は別となる。これは大中国経済圏の役割分担を次の通りにすべきことを示唆する。台湾や香港の投資家が香港の子会社を通じて台湾の企業に出資し、この子会社が中国本土に投資をする。GEMはこの示唆にしたがったものなのだ。
このGEMが発展するのであれば、中国の対台湾武力行使には自ずと歯止めがかからざるを得ない。なぜなら、中国政府は相手が台湾であれば安心して門戸を開き、市場が求める製品・サービスを提供できるよう中国本土従業員を指導することを、台湾企業に期待できるからだ。
以上から明らかなように、GEMは台湾の「二つの中国」宣言をバックアップする役割を担っているのだ。したがって、台湾がGEM設立に動いたのであろう。言い換えれば、台湾は自分に有利に作用する新しい環境をタイムリーに創り出したのだとも言える。
3、台湾は中国政府の利益になるようなフォローをする(交渉の風向きを変えた方が相手の利益になるようなフォローをする)
台湾側の思惑通りに事が運ぶということは、中国の政権を担っている改革派は面子を失い、改革派が保守派に政権の座を譲ることに結びつきかなない。このような事態の発生は台湾にとって好ましくない。それではどうしたらよいか。台湾側は二段階の対策を講じるべきであろう。
中国が世界貿易機構に加盟できるべく、台湾が日本と一緒になって米国に積極的に働きかける。米国の中国に対する国民感情、ひいては共和党の強行姿勢を考えると、これはすんなり実現させるのは難しい。しかしながら、次のようなことが起きれば話は別であろう。
中国は「二つの中国」問題で米国民がはらはらするまで強硬姿勢をエスカレートさせる。すると、米国民は「何か代償を払ってでも、事態を円満に解決させなければならない」と思うようになる。このような国民感情が十分に出たところで、つまり、共和党を本件で賛成せざるを得ないような状態にした上で、中国の世界貿易機構加盟を認める。
この画策が第一段階の対策。中国の同加盟は「二つの中国」問題で中国をなだめるための飴の役割を果すだけではない。中国の民主化を一気に進めることをも狙ってのものである。(私のホームページの「ワタナベタカヤひらめきメモ」の「こじれてしまった関係を正常に戻す方法―
WTO(世界貿易機構)加盟並びに大使館誤爆を巡る米中関係から考える」〈1999/6/25〉〈1999/6/29〉〈1999/7/2〉〈1999/7/6〉参照)
中国が確実に民主化路線を歩むようにした上で、台湾は中国政府に花を持たせるのが第二段階の対策となる。
李登輝・台湾総統が「二つの中国」を宣言した背景には、次期総統選挙で与党を勝利させることもある。そこで、連戦副総統(国民党副総裁)が次期総統になることが確実になったならば、台湾政府は「中国が完全に民主化された暁には、ヨーロッパ共同市場同様のプロセスを経て、中国本土と台湾の政治統合を歓迎する」という声明を直ちに発表すべきであろう。(他の候補が次期総統になった場合でも、このような声明を発表することは可能である)
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