自分に不利な交渉の流れを変える方法(その1)
― 台湾の「二つの中国」宣言問題を考える〈1999/9/3〉
江沢民国家主席はクリントン大統領との電話会談で「我々は武力行使の放棄を約束してしない」と言明した。にもかかわらず、台湾が中台を「国と国の関係」だとする主張を堅持する書簡を中国に送り、中国がこれを突き返したことで、中台間の緊張長期化は決定的になった。
台湾のこうした態度を米国政府は支持していない。過去の中台の緊張時とは大違いである。にもかかわらず、台湾は今なぜ危ない橋を渡ろうとしているのであろうか。
台湾側の真意並びに事態打開策を考察すると、実に興味深いことがあることに気付く。なぜなら、下記のようなストーリー構成のある「交渉手引書」ができそうだからだ。そこで、このストーリーに基づいて、台湾の「二つの中国」宣言問題を考察してみよう。
1、台湾は現状路線を歩む限り中国に併合される(現状路線を歩む限り交渉が決定的に不利にな
る)
2、台湾は「二つの中国」を認めさせるタイミングを捉える(タイミングを狙って交渉の風向き
を変える)
3、台湾は中国政府の利益になるようなフォローをする(交渉の風向きを変えた方が相手の利益
になるようなフォローをする)
4、中台の利害を最終的に一致させる(交渉当事者の利害を最終的に一致させる)
1、台湾は現状路線を歩む限り中国に併合される(現状路線を歩む限り交渉が決定的に不利になる)
台湾は中国に併合されることを認めた歴史的事実がある。この影響は大きい。なぜなら、人間には、「結婚生活を継続させたい」といったような「一貫性の原理」が働きやすい心理があるからだ。中台問題で、中国側にこの原理が働いていることは言うまでもない。(交渉の流れを変えたいのであれば、この「一貫性の原理」が作用しているかどうかを確認し、この原理が作用しているのであれば、ここにメスを入れなければならない)
しかも、クリントン大統領は中国が主張する「三つのNO」(台湾の独立を認めない/二つの中国を認めない/台湾が国際組織に加盟することを認めない)を受け入れてしまった。いわば、「一つの中国」はお墨付きを貰ったようなものだ。なぜなら、米国の両国に対する影響力には決定的なものがあるからだ。(交渉の流れを変えたいのであれば、交渉当事者に決定的な影響力を持つ人物がかかわっていないかをどうかを確認し、かかわっているのであれば、自分に有利になるように、この人物の心を動かさなくてはならない)
このような状態に陥っていても、「二つの中国」へと流れる情勢があれば、台湾が望む方向のエネルギーが生まれるかもしれない。ところが、逆なのだ。なぜなら、一昨年の香港に引き続いて、マカオが今年の12月にポルトガルから中国に返還されることになっているからだ。
西ドイツと東ドイツの「二つのドイツ」が存在していたこと、そして、自由主義の西ドイツが共産主義の東ドイツを併合したこと。台湾はこの国際社会における歴史的事実を捉えて「二つの中国」を、「一つの中国」になるのであれば自由主義の台湾が共産主義の中国を吸収することを、それぞれ主張し始めたのは、上記した「一つの中国への流れ」をせき止めることが狙いなのだ。
しかしながら、台湾と中国はドイツのようにはなりにくい。なぜなら、西ドイツの方が東ドイツよりも国力は遥かに上。これは当時の将来を展望しても変わらなかった。一方、台湾の経済力は現在でこそ中国を上回っているが、将来を展望すると、立場が逆転することはほぼ間違いないからだ。
以上から明らかなように、台湾は中国への併合にじわじわと追いこまれているのだ。プラスとなる心的エネルギーがどちらの方が大きいかが交渉を左右しがちだが、中国側に有利となっているのは論を待たないのだ。(交渉の流れを変えたいのであれば、自分に有利になる客観的な環境変化を待つなり、創り出す必要がある)
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