落ち目のリーダーシップ再強化の方法 ― 世界におけるアメリカのあり方に学ぶ(その1)〈1999/5/28〉
バナナ問題に端を発したEUとの通商摩擦が泥沼化しつつある。日欧が積極的な為替相場圏構想に後ろ向きである。1999年末に開催が予定されているWTO総会のホスト国でありながら総会のテーマを未だ提示するに至っていないなどに見られるように、世界の自由貿易推進におけるアメリカのリーダーシップに陰りが見えてきた。
そして、アメリカのリーダーシップの退潮はちょっとやそっとのことでは挽回できそうもない。なぜなら、下記のような構造的な原因が背景にあるからである。
◎元々嫌われやすいところがある
アメリカは二つの特徴を持っている。圧倒的にグローバル・エコノミー化している。これがひとつ。国外問題であっても市場原理追及を迫る国内圧力がある。これがもうひとつである。
上記「二つの特徴」が原因して、アメリカは「他国のことであっても、自国の問題と同じ」という考え方を持ちがちである。したがって、外交問題におけるアメリカの言動は他国にとって傲慢に映ってしまう。
価値観や立場の相違が誤解を招き、仲たがいに結びつく。こういうことが個人間に起りがち。同じことがアメリカと他国との間にも当てはまるのである。
◎強力な仲間は敵になりかねない
強力な仲間は敵がいるときは心強い。ところが、敵がいなくなると、仲間が転じて敵になる場合が少なくない。敵がいるときは強力な仲間は保護者役を演じてくれるが、敵がいなくなると、支配者に転じてしまいかねないからである。
上記したことは、東西冷戦構造時代並びに東西冷戦構造終結後のアメリカに当てはまるのである。
圧倒的な力を有する者は外敵から守ってくれる頼もしい保護者。しかしながら、外敵の脅威がなくなると事情が変わってしまう。途端に対等の付き合いができなくなるので、目障りな存在になってしまいかねないのである。こういうことは個人間でも多い。
◎リーダーに不利な環境変化が不可逆的に発生した
東西冷戦構造の終結はアメリカにとって二つの不利な影響をもたらした。西側の結束が弱まったことがひとつ。インターネットの普及などによるネットワーキングの容易化も加担して、冷戦時代に堅持されてきた、アメリカのみをバインダーとする自由社会の通商構造が終結してしまった。そして、世界経済にしめるアメリカのシェアが急速に低下してしまった。
軍事力の持つ威力が総体的低下した上に、軍事力強化のコスト・パフォーマンスが悪くなってしまったのである。
上記したような事情は何もアメリカのみに言えることではなく、長いことリーダーシップを発揮してきた人物にも当てはまりがちなことである。
それではどうしたらよいのか。アメリカを例にとり、衰退の一途を辿らざるを得なくってしまったリーダーシップ再強化の方法を考えたい。
リーダーシップ再強化の突破口を探さなくてはならないが、果たしてそのようなものがあるのだろうか。あるのである。なぜなら、次のことが指摘できるからである。
◎価値観の多様化は強力なライバルの登場を困難にする
アメリカのリーダーシップに対抗し得る国として、フランス・ロシア・中国などが考えられるが、それぞれ一国ではアメリカに対抗できない。そこで、これらの国が一本化することが理論的に考えられるが、実際はほぼ不可能である。なぜなら、各国の文明があまりにも違いすぎるからである。
軍事的脅威など、団結を必要とする特別の動機があれば、文明の違いは克服できる。ところが、そのようなものは当分見つかりそうにもない。したがって、各国の文明の違いが災いして、アメリカに対抗すべく、フランス・ロシア・中国などが一枚岩となることはほぼ不可能である。
EUを通じてのフランスのリーダーシップの確立が目指されているが、EUが経済面だけではなく、政治的にも統合するのは随分と先のことであろう。
上記したようなことは国際関係だけに言えることではない。個人間についても当てはまる。特定人物が長いこと指導的立場にいると、その人物の権力基盤は圧倒的なものとなる。したがって、他のひとりひとりがこの特定人物に歯向かうのは容易ではない。だからといって、価値観の多様化時代においては、ライバルの合従連衡も容易ではないからである。
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