立場の違いを理解した共通ビジョンにより対立の解消を
― バナナ問題など、アメリカとEUの対立に学ぶ〈1999/4/19〉
アメリカとヨーロッパが協力することにより、世界の自由貿易は戦後一貫して強力に推進されてきた。ところが、地球環境、為替レートの相場圏、バナナ問題を象徴とする貿易摩擦に見られるように、両者の対立が目立ち始めてきた。
しかも、アメリカはWTO(世界貿易機構)の1999年度総会の主催国であるにもかかわらず、未だに明確な方針を打ち出してない。WTOは貿易摩擦を回避する制度的な手段であるにもかかわらず。
「抜本的対策を打ち出す大前提は原因の解明が先決」という考え方に立って、対立の背景を推理を交えて、眺めてみよう。
●アメリカの立場
アメリカの立場をまず見てみよう。アメリカは人工国家であるので、公理公論で事を決することが必要。そして、島国であるが故に外敵から攻められる危険性が大陸に比べる少ないので個人の自由裁量の余地を大きく与えてきた、イギリスの伝統を受け継いできている。だから、硬直的なルールや癒着を嫌う、市場原理追求の度合いが世界一になっているのである。
(したがって、アメリカとしては、地球温暖化やそのデメリットについての国民的論議がなされていない段階で、EUの主張をすんなりと受け入れるわけにはいかないのである)
アメリカ人の現状認識力や将来展望力が皆同じであれば、理想的な国家運営が可能となる。ところが、他国同様そうはいかない。にもかかわらず、百家争鳴になりがちな市場原理を追求しなければならない。しかも、冷戦構造の終結により国論を統一しにくくなっている。したがって、一般国民対議会、議会対政府のギャップ(問題意識における)が生まれざるを得なくなっているのである。外交政策の腰が定まらないのはクリントン大統領の責任ばかりではないのである。
(硬直的なルールに縛られるのを嫌う上に、外交政策の腰が定まりにくい。こういうことがあって、アメリカはWTO(世界貿易機構)の1999年度総会の主催国であるにもかかわらず、未だに明確な方針を打ち出してない。このように考えられるのである)
先端産業を生み続ける力、言い換えれば開発力においてアメリカはダントツの世界一。したがって、アメリカ経済は従来産業を直接投資を通じて他国に譲る形で行う、言いかえれば、従来産業の製品を輸入する形で行う、経済のグローバル化メリットの享受力もダントツの世界一。
こういうこともあって、アメリカは苦境に陥ったアジアや中南米からの輸入を拡大でき、その結果、世界経済が大恐慌になるのを防いできた。そして、「アメリカだけが貿易赤字の拡大を通じて、世界経済を救い続けたきたのだ」という自負心を抱くに至っている。
そこへ持ってきてのユーロ誕生。アメリカの貿易赤字がこのまま拡大し続けると、世界の基軸通貨がドルからユーロにシフトし、ドルは大暴落しかねない。ドルの大暴落はアメリカの国益を大きく損なうことに結びつくことは必至。アメリカとしては貿易赤字幅の拡大を食い止めると共に、ドル需要の維持・拡大に結びつくドル経済圏の拡大を行わなくてはならない。このようなことをアメリカ当局は真剣に考えているはずである。
(ドルの価値安定化は、ドル安による輸出拡大という手段の喪失に結びつく。このような状態にはなりたくない。それに、アメリカは市場原理追求主義。だから、アメリカは為替レートの相場圏に賛成しない。このように考えられるのである)
(EUのバナナ輸入制度がカリブ海やアフリカなどの旧欧州植民地を優遇していることに我慢ならない米政府は、3月3日、一部EU製品に事実上100%の関税を課す「禁輸制裁」に出た。この背景には、「米国はアジアや中南米からの輸入を拡大することにより、世界が大恐慌になるのを防いでいるのに、EUは自己利益しか考えていない」という米国の不満があるである)
●EUの立場
ヨーロッパはアメリカよりも人口密度が高い。したがって、その分、環境問題に対して神経質な面があり、これが地球温暖化問題への関心の高さに結びついている。
EUは結成されてから日がまだ浅いので、結束しきれていない。その上、各国とも高い失業率に悩まされているので、EUは内向きにならざるを得ない面が強い。
アメリカとの建国の経緯の違いなどが原因して、アメリカよりも市場原理の追求度が低くくなっており、これが労働者保護に結びついている。言い換えれば、労働者のレイオフは容易ではない。したがって、アメリカに比べて内外需のスイッチが容易ではないので、為替相場の大きな変動の国内経済への影響は大きくならざるを得ない。
(アメリカに比べて市場原理追及度が低い上に、為替相場の大きな変動の国内経済への影響は大きくならざるを得ない。こういう事情があるから、EUは為替レートの相場圏に熱心なのである)
アメリカに比べて労働者のレイオフが容易ではない。言語などの壁があるので、ヨーロッパを横断するネットワーキングを行いにくい。国別に市場が分断されているので、アメリカのような単一の大規模市場を形成していない。アメリカに比べて市場原理の追求が容易ではないので、その分、個人的野心の追求がしにくい。この四つが主な原因となって、ヨーロッパはアメリカに比べて研究開発力がかなり見劣りする。言い換えれば、先端産業追求力が劣る。
(内向きにならざるを得ない上に、アメリカに比べて先端産業追及力が劣る。しかも、英語は世界語、世界の警察機能は米国のみ。EUはアメリカに比べてグローバル・エコノミー化のメリットが少ないのである。となれば、アメリカのように、アジアや中南米の製品をどんどん輸入するわけにはいかないのである)
ドル価値の乱高下の影響から解放されたい。アメリカに負けない単一の大規模市場を形成したい。こういう願いがあるから、EU11カ国は通貨発行権という国家の主権を放棄してまで、ユーロを誕生させたのであった。このユーロを育てていくには、健全な金融政策並びに研究開発力を強化するだけではなく、ユーロ経済圏の拡大も視野に入れなければならない。
(カリブ海やアフリカなどの旧欧州植民地は将来のユーロ経済圏。だから、EUのバナナ輸入制度がカリブ海やアフリカなどの旧欧州植民地を優遇しているのである)
●対立解消策
以上から明らかなように、アメリカとEUの立場は同情せざるを得ないものばかりである。それでは、「両者の主張はそれぞれ正しい。したがって、対立は仕方がない」と諦めるべきなのであろうか。両者の主張はそれぞれ正しい。しかし、交渉を妥結させないと共倒れ。こういうことは個人間でも起きがちなので、この種の問題をどう扱うべきかを考えたい。
米国の軍事力を吸収する形でNATOを欧州に限定することなく、グローバル化する。ユーロ経済圏は欧州とアフリカ大陸の一部に限定、その他は米ドル経済圏にする。その代わり、アメリカには自由貿易を率先垂範して貰う。(ここ数年のアメリカの新しい雇用は情報産業が生み出しているように、アメリカは新産業を生み出す力を持っているので、このようなことをしても、アメリカは雇用の維持・拡大はできるはずである。問題は産業構造の高度化にアメリカの国民をついていかせるための教育だけである)
アメリカ主導によって実現する自由貿易の推進は企業間競争を更に激化させることに結びつく。そして、企業間競争の激化は国境や地域を越えた企業合併を一段と推進することに結びつく。
かくして実現の一途を辿る、国境や地域を越えた企業合併を通じて、EUは米国社会の研究開発力を吸収できる。また、この異国間・異地域間の企業合併を通じて、アメリカとEUの経済体質が似てくる。(グローバリゼーションの時代においては、経済政策の違いが緊張をもたらし、この緊張が為替相場の変動に結びつくのである)
経済体質が似てくることは実質的な世界政府の実現に自ずと結びついていくであろう。
世界政府が実現したときに心配なのは競うことがなくなることによる、人類の衰退である。このようなことがないようにするためには、企業間・個人間の癒着が生まれないようにしなければならない。
だからといって、自由競争を画一的なルールで実現できるものではない。それぞれの関係はあまりにも複雑だからである。ここに、ケースバイケースにおいて価値判断する市場原理追及の必要性がある。(したがって、EUとアメリカの経済体質はますます似たものになっていくであろう)
古代アテネのデモクラシーは市民と奴隷の二分化に結びついてしまった。だから、市場原理の追及は真の市民福祉にもとる。こういう反論があり得るが、この反論に対しては、「社会保障によって最低生活を保証されるが故に、思いきった挑戦ができるようにする。これがこれからの競争社会のあり方である」という言葉を返したい。
アメリカとEUの立場の違いを理解した共通ビジョン開発ということから言うと、上記「対立打開策」はビジョンづくりの契機を提供したに過ぎない。また、ビジョンづくりの契機だけを考えても、他にもっと良いアイディアがあるかもしれない。私が申し上げたいのは「複雑な問題を解決するには、問題を幅広く集め、問題の背景を洞察する。そして、その結果を総合的に眺めてブレークスルー発想をしなければならない」ということである。
問題の一つ一つを断片的に捉えた尺取虫的発想では複雑な問題は決して解決できないのである。(複雑な問題の解決の仕方については、『ワタナベ式問題解決へのアプローチ』適用による『創造的統合戦略策定の勧め』をご参照願いたい)
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