性格(体質)と歴史的立場に合わない挑戦は失敗する ― マイクロソフト社経営の香港テレコムに学ぶ〈1999/4/13〉
インターネットに高速で接続し、お好みのビデオと音楽を自由自在に選べる。こういう謳い文句で、マイクロソフト社経営の香港テレコムは有料の双方向通信のテレビサービスを昨年始めた。
今年の3月までに25万人の加入者、一人当りの月平均の支出額50ドル。これがマイクロソフト社のこの事業の当初見積もり。ところが、実際は8万人、35ドル。したがって、損益分岐点を大きく下回ることとなった。
世界のマイクロソフト社のこの新規事業はどうしてこのような惨憺たる状態になってしまったのであろうか。低価格でマスマーケットを一気に形成する。このマイクロソフト社の本業の成功方程式を香港テレコムに持ちこんだことに失敗の原因がありそうだ。
視聴者にこのサービスを提供するためのインフラ整備には莫大な投資が必要。そこで、視聴者単位当りの投資コストを軽減させるために、テレビ好きな低所得層が密集している集合住宅郡が標的市場に選ばれた。
実はこの標的市場の選定の仕方に失敗の原因があると言えそうなのである。なぜなら、選ばれた標的市場がテレビ好きであるのは無料で見られるからであり、有料には馴染みにくいからである。
それでは、マイクロソフト社経営の香港テレコムはどのような標的市場を選ぶべきであったのであろうか。
従来のテレビ番組では満足しない。また、従来のインターネットではアクセスに時間がかかりすぎていらいらしている。この悩みを解決してくれるサービスであれば、余計な出費を厭わない。このような特徴を持った高所得層が選ばれるべき標的市場であったのである。
マスマーケット狙いたいのであれば、上記した高所得層向けのサービスを行い、コストを回収してから、価格を徐々に下げ、低所得層を席捲する。こういうやり方を採用すべきだったのかもしれないのだ。
過去の成功方程式にしたがった行動を採る。この人間の悲しい性は天才・ビルゲーツといえども例外ではなかった。だから、香港テレコムの事業はうまくいっていないのだが、このような過ちは掃いて捨てるほど沢山ある。例えば、高炉鉄メーカーの某社は社内に蓄積した技術を活用しようとして、ロボットの生産・販売に乗り出したことがあるが、同じように過ちを犯して、新規事業開発に失敗してしまった。
ロボットの生産・販売事業の成功の鍵はオペレーション・ノウハウ。ところが、この企業は「設備投資のあり方で成功すれば万事OK」という本業の成功の方程式にとらわれてしまい、設備投資だけに薀蓄を傾けてしまったのである。
それでは、新規事業など新しい試みに乗り出すに際して、「転ばぬ先の杖」をどうすれば入手できるのであろうか。
企業年表を事前に作成・分析することをお勧めしたい。この作業をしっかりと行えば、現在の経営体質を前提にするのであれば、どういう新しい試みが失敗し、成功するかが一目瞭然となるものである。
どうしても現在の経営体質が通用しない新規事業に乗り出したいのであれば、「新しい酒は新しい皮袋に」という諺をかみした施策が必要となる。必要な体質を持った人材を募り、別組織で新規事業を推進させるなどの工夫が不可欠となるのである。旧来の体質に染まった現有の人材を活用したいのであれば、染まりきった体質がまったく通用しない企業に出向させるなどを事前に行うことが必要となる。
必要な技術があるとか、あるいは新たにとり込めるからといって、異なった体質を必要とする新規事業に決して安易に乗り出してはならないのである。
▲トップ
|