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【斬新な着眼】


悔いなき人生はどうしたら実現できるか?
人生を生け花に見立てることである ―


うまくいかなくなったのはなぜなのか?

2005.9.12

大局観と洞察力が不足した積極策は事態悪化に結びつく


地盤沈下してしまった商品と販路の再構築が不十分なまま行った大型投資を伴う、押し込み販売が裏目に出てしまった

(高哉) 人心を一新して経営路線の見直しを行うことが成功に結びつくとは限らないよ。資金繰りが全くできなくなったために民事再生法適用のやむなきに至った名門ブラウスメーカー「東京ブラウス」なんかがそうだよ。オーナー経営者が後ろに引っ込んで若手に経営を託した。だけど積極経営がうまくいなかったようなんだ。

(節子) 東京ブラウスのことは個人的に比較的よく知っている。社員の給料が遅配することがよくあったみたいね。

 でも、クレイサスのブランドで販売した数千円のバッグやイヤリングが「神戸系ファッション」としてブームになりかけていたので、「うまくいくかなぁ」と思ってたんだけどね…。何がいけなかったのかしら?

(高哉) ブームになりかけていた「神戸系ファッション」のクレイサス。このブランドで販売した数千円のバッグやイヤリングを大きく育てるためには積極的な出店が必要。ところが、資金が大幅に不足していたためにそれどころではなかったようだ。

(節子) 将来性のある事業が少ない昨今だから銀行に頼めば積極的な出店に必要な資金は調達できたんじゃないかしら?

(高哉) その時には既に債務超過に陥っていたようだ。それにファッションは水物。こういう状態だと銀行は見向きもしなかったんじゃないかなぁ。

(節子) 東京ブラウスの主力商品は40歳以上を対象とするブラウス。しかも、百貨店への卸が中心でしょ? こんな手堅い商売をしていてどうして債務超過に陥ってしまったのかしら?

(高哉) 小売業界における百貨店の地盤沈下が進んだ上に、消費者ニーズはブラウス単品で買うのではなく、ブラウスとパンツを組み合わせる。こういうようなスタイリング重視に変化したことが東京ブラウスに大打撃を与えたようだよ。

 となれば、百貨店への卸が売り上げ構成比95%、しかも40歳以上を対象とするブラウス単品メーカーの業績が悪化し続けるのは当たり前と言えるかもしれない。

(節子) 主力であった商品並びに販路が共に陳腐化した…というダブルパンチを受けたというわけね。でも、世の中はどんどん変わっていくのだからこれって当たり前でしょ。こういう変化に手を拱いていたのかしら?

(高哉) 借金をして新宿店、大阪店、神戸店等の営業拠点を開設する。20代後半の女性をターゲットにクレイサスのブランドスーツを立ち上げる。この二つからなる対策を講じたようだ。

(節子) にもかかわらず、うまくいかなかったのはどうしてなのかしら? クレイサスのブランドスーツが8万~10万という高価格であったことがいけなかったのかしら?

(高哉) このスーツはあまり売れなくって赤字を続けていたそうだから、価格設定が間違っていたんじゃないかなぁ。若い女性のスーツで8万~10万円というのはちょっとべらぼうだと思うよ。

(節子) 起死回生の期待を背負った新商品が売れなかったら、新宿店、大阪店、神戸店等の営業拠点を開設するための借金がずっしりとのしかかってきちゃうわね。

(高哉) その通り。97年12月期の数字では売上高約145億円に対し、金融負債が約10億円になってしまったようなんだ。

(節子) この東京ブラウスの失敗劇は問題の原因を的確に掴むことが適切な問題解決策に結びつくとは限らない。こういうことを教えてくれたわよね。

 小売業界における百貨店の地盤沈下が進んだので、新宿店、大阪店、神戸店等の営業拠点を開設した。40歳以上を対象とするブラウス単品メーカーの業績が悪化し続けたので、20代後半の女性をターゲットにクレイサスのブランドスーツを立ち上げた。

 ここまでは良さそうに思えるんだけど、商品の内容が間違っていたので、多額の投資が裏目に出てしまったんだから…。

 神戸系ファッション「クレイサス」のブランドで販売した数千円のバッグやイヤリングがブームになりかけていたことを考えると、どういう商品をどういうタイミングで売り出すかが大事であることがよく分かったわ。

 こういうことって人間関係でも言えそうね。小さなことをして相手の反応を見て「この人はこういう人なんだなぁ」という結果を得るためには、「少しづつ」という考え方が良い人間関係を創りあげるためには大事だもんね。


メガトレンドを踏まえない積極経営が命取りになった

(高哉) 東京ブラウスの失敗例を知って、「企業経営はやっぱり具体的な行動が大事なのだ。経営の方向を適切にすることを云々するのではなくさっさと行動することの方がはるかに大事だ」となってしまったら困る。

(節子) どうしてそんなことを言うの? 進む方向を適切に設定してから具体策を考えるのは当たり前じゃないかしら?

(高哉) ところが、そういう具合に考える人ばかりではないんだ。短兵急に結論を急ぐ人が実に多い。

 「開発目標の設定が企業経営で一番大事だ。だから、時間をかけて開発目標を設定しよう」と言うと、「そんな面倒なことはどうでもいい。何をすべきかを今すぐに教えて欲しい」「経営ビジョンは先のことでしょ? そんなことよりもこの商品をどのくらい生産していくらで売るかを決めることの方がはるかに大事だ」と言って聞かない人が結構いるんだ。

(節子) 代表して聞くんだけど、開発目標の設定が企業経営で一番大事である理由を分かりやすく説明してくれないかしら?

(高哉) 企業間競争は緒戦で勝つだけでは駄目。勝ち続けなければならない。商品開発は思いつきで成功することは珍しくない。ソニー電子機器部門の三本柱のひとつであるウォークマンが始めて登場した時は「やった」と思ったね。

 案の定、消費者が渇望していたものであり、しかも、ライバル商品がなかったものだから爆発的に売れた。このウォークマンだけど、音響製品を作っているメーカーでなければ作られなかったと思う?

(節子) このような製品を思いつくことができれば、他業種の企業であろうと個人であろうと生産・販売できたでしょうね。なぜなら、製品を構成する部品は標準化されたものだから電子機器部品メーカーから買うことができるでしょうから…。

(高哉) その通りだよ。このウォークマンのミソであるイヤホーン部分の「ダイヤフラム」は電気製品業界ではなく、繊維業界に存在するものであった。このことを考えるとますますそういうことが言えるね。

 但し、ウォークマンの売り出しに成功した他業種の企業や個人が企業間競争に勝ち続けることができるかどうかとなると別問題となる。

(節子) 模倣品が出てきた時の勝負は音響製品分野での総合力で決する。他業種の企業や個人にはこの総合力がない。こういうことかしら?

(高哉) その通りだよ。ここに開発目標設定が企業経営で一番大事であるとする根拠があるんだ。

 模倣と言ったって改良・改善がなされる。競争に打ち勝つためには更に上回るものを開発しなければならない。また、生まれた隙間市場も埋めなければならない。グリコのスナック菓子「ポッキー」だって同じことが言える。この商品が大型ヒット商品の地位を保ち続けているのはどうしてだと思う?

(節子) 商品開発に成功しても、「これで終わり」ということにしないで、市場に最初に導入した製品の周辺に次々と新製品を送りこんだからでしょう? 次の図式を実現させることを狙って…。

 消費者の「今度はどんな新商品が出てくるのかなぁ」という期待に応え続ける ⇒ 消費者の心の中でのグリコの存在は大きいものとなる ⇒ グリコ製品をついつい買ってしまう。

 それに「ポッキー」と一口で言っても様々な商品があれば、多様なニーズに応えることができる。したがって、「こういう商品が欲しいと思う ⇒ グリコにないので他のメーカーの商品を買う ⇒他のメーカーの良さを知り、ファンになってしまう」という図式が防止できるわね。

 そうか。自分で言ってみて気がついたんだけど、次々と新商品を送り込む覚悟なくしては新分野を開拓できないわね。だから、「開発目標設定が企業経営で一番大事である」というわけね。

(高哉) ヒット商品を生み出すためには企業は全力投球しなければならない。いいかえれば、ヒット商品を出すための努力は他のビジネス・チャンスを犠牲にすることを意味する。「開発目標設定が企業経営で一番大事である」という言葉の背景にはこういうこともある。

 他社が開発した画期的な技術を指して、「あれを一番先に考え出したのは私なんだ」という技術系の社長が結構いる。この自慢話のようなぼやき節のような発言の捉え方だけど、開発は大きなリスクを伴うものであることを意味していると理解しなければならない。

(節子) 分かったわ。だから、「企業経営はやっぱり具体的な行動が大事なのだ。経営の方向を適切にすることを云々するのではなくさっさと行動することの方がはるかに大事だ」となってしまったら困ると言ったのね。・・・・・企業経営の方向を誤ったために取り返しのつかないことになってしまった例としてどんなことがあるのかしら?

(高哉) 東海地区で初めて交差点の名前を入れた道路の書籍地図を1985年に作成して大当たりしたアルプス社はその後経営の舵取りを誤って転落してしまい、2004年12月民事再生法の適用を申請するまでに落ちぶれてしまった。

 公認会計士の事務所からの推薦で途中入社した人がとんとんと社長に登用したことがあだになってしまったんだ。この例なんかが教訓として使える。

(節子) 地図ソフト「プロアトラス」や地図データの販売でアルプス社はがんばっているじゃないの。でも、民事再生法の適用を申請するまで落ちぶれてしまったことがあるんだ。地図販売のような地道な商売をしてどうしてそんなことになったのかしら?

(高哉) アルプス社が栄光から挫折に転じてしまった主な原因は二つありそうなんだ。いずれも市場環境の致命的な読み間違えなんだけど…。

読みの間違え1 :日本での販売権を取得した米国製の商圏分析ソフトを梃子に用いて全国を網羅した書籍地図を販売しようとした。ところが、二つのことがあったために、意気揚々として打ち出した企業成長戦略は思惑が大きく外れてしまった。

① 「商圏分析ソフトに頼らなくてもウチは店舗立地の判断で間違ったことがない」という企業が多かった。
商圏分析ソフトに頼っても他社の地図が買われることが多かった。

読みの間違え2 :IT革命絡みのダブルパンチを食らってしまった。

① カーナビゲーション並びにインターネットによる地図検索が普及した ⇒ 書籍地図の需要が激減した。
カーナビゲーションが要求する地図情報はライバルのゼンリンの2500分の1である ⇒ アルプス社の1万分では対抗できなかった。

(節子) 怖いわねぇ。これまで説明してもらった企業経営の失敗はことごとく環境変化に適応できなかったことばかりね。そして、企業経営も人生経営も同じだなぁとつくづく思ったわ。

 特にはっとさせられたのは自分で気がついたブランド力の強化・維持のためのグリコが払ってきた努力ね。次の図式って、男の女の関係にそっくり当てはまるもの。

 消費者の「今度はどんな新商品が出てくるのかな」という期待に応え続ける ⇒ 消費者の心の中でのグリコの存在は大きいものとなる ⇒ グリコ製品をついつい買ってしまう。

 こういうグリコのような努力をしないから夫婦がうまくいかなくなるんだなぁ…と思ったわ。

 それから、高哉さんがよく言う「企業経営は波乗りの才覚が必要」の意味がよく分かった。企業経営のナビゲーターであるシンクタンクや経営コンサルタントを常時登用する必要があるわね。実際のところその脳力・能力はどうなのかしら?     (次号に続く)



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