【斬新な着眼】

成長遺伝子をビジネス・パーソンに組み入れよう ― ホットな論議「小泉首相は抵抗勢力?」から考える〈2002/3/2〉
構想力・独創力に裏打ちされたビジネス・パーソンのやる気が日本を救う
日本経済はとうとうデフレスパイラルに陥りつつあります。このまま放置しておきますと、大恐慌になってしまいます。そこで、このデフレスパイラル食い止め策を巡って盛んな論議が交わされています。代表的なものに次の二つがあります。
(1)インフレ促進政策を先行させてから不良債権処理を行わなければならない
不良債権の処理は、必要だが短期的にはデフレを進行させるので、今はやるべきではない。今必要なのは、インフレ促進政策。なぜなら、「物価上昇の見通し⇒買い控えの取りやめ(消費促進)⇒デフレの終焉⇒不良債権処理の容易化」というシナリオが実現できるからである。
(2)デフレ進行に終止符を打つためにも不良債権処理を急がなければならない
不良債権の処理は負け組みの市場からの退場に、負け組みの市場からの退場はデフレスパイラルに終止符を打つことに結びつく。だから、なんとしてでも不良債権を短期間で処理しなければならない。
上記の二つの対策は日本経済再生に結びくのでしょうか。残念ながら「否」といわざるをえません。主な理由を挙げますと、次の通りです。
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引越しに伴って不要になる家財道具の貰い手を捜すのが困難を極めことが示すように、必需品の市場は飽和状態に近い。これが消費を冷え込ませている最大の理由。したがって、「物価上昇の見通し⇒消費促進」という具合にはいきにくい。
(「新時代が要求する魅力的な製品・サービスを企業が提供する⇒消費欲求が刺激される+成長力ある企業輩出により消費者の安心感が生まれる⇒消費が拡大する」というようになることが必要なのです)
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市場は国内だけではなく世界に広がっていることを考えると、負け組みの存在が勝ち組の伝統的な工業型製品に代わる新産業の育成を妨げていることに直結しているとはいえない。したがって、「不良債権の処理は負け組みの市場からの退場に、負け組みの市場からの退場はデフレスパイラルに終止符を打つことに結びつく」というようにはなりにくい。
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中国が日本に代わって世界の中心的な供給源になった、伝統的な工業型製品に代わる新産業の育成なくして日本経済は再生できない。にもかかわらず、ままならないのはどうしてなのでしょうか。主な理由は三つあります。
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新成長機会は潜在している。ところが、洞察力が不足しているために、新成長機会の存在を見抜けない。
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A |
新成長機会は潜在しているために、組織的な同意形成が容易ではない。したがって、マイノリティになる覚悟なくしては決行できない。ところが、日本の社会は心情的にも制度的にもアンチ・マイノリティ的であるために、リスク回避志向が首をもたげてきて、新成長機会に気づいても事業化に着手しにくい。
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B |
ユニクロがそうであったように、見抜いた新成長機会を確実にものにするためには、 「構想力・独創力のある経営者的な才覚」が必要不可欠。ところが、このような能力はほとんど培われていない。
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構想力・独創力に裏打ちされた、やる気のあるビジネス・バーソンが輩出されない限り、日本経済は決して再生されないのです。(日本の経済体質は米国とは異なるのです。したがって、米国で通用した経済政策が日本で通用すると思ったら大間違いなのです)
日本経済をあたかも機械装置のごとくに扱う、次のような考え方に訣別しない限り、日本経済は決して再生されないのです。
(政府筋やエコノミストの支配的な意見) 景気を回復させないと、企業は再生できない。(あるべき順序は、「企業の再生進展⇒景気の回復」なのです)
(企業経営者がしばしば述べる愚痴)いつになったら光が見えるのか。その時期を具体的に示してくれれば、それまで耐え忍びます。(企業に期待されているのは、新しい価値の創造であって、社会の歯車役遂行ではないのです)
以上の説明によりお分かり頂けたと思いますが、日本経済が没落の危機に瀕しているのは、「不良債権の重荷で、金融機関が機能不全に陥っている」からではなく、「ビジネス・バーソンに成長遺伝子がないに等しい」からなのです。
〈水や肥料をいくら与えても萎え続けている植物のような状態、これが日本の現状です。どうしてこうなってしまっているのでしょうか。日本の伝統的なビジネス・モデルは優秀なロボットあるいは高品質の歯車のような人材を輩出しました。反面、地下水を自ら求めて根を張る逞しい樹木が持つような成長遺伝子をビジネス・バーソンに組み入れることを怠ってきたからなのです。
このように申し上げますと、「日本経済は総需要管理政策を巧みに用いて自律反転を繰り返して不況を脱出して、成長を遂げてきた歴史がある。したがって、ビジネス・バーソンに成長遺伝子があるはずである」という反論が出てくることでしょう。
この反論に対しては、「工業化の余地があったから総需要管理政策が経済の自律反転に結びついたのです」という言葉を返させて頂きます)
「日本の伝統的なビジネス・モデル並びにそのマイナス・インパクトの詳細」「このマイナス・インパクトを踏まえた、日本企業再生のための具体策の詳細」については、渡辺高哉著『勝ち組メーカーに学ぶサービス事業戦略』(PHP研究所)をご参照ください。
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