新規事業を成功させる人材開発の方法 ― 政府の不況脱出策から考える〈1999/7/9〉
わが国経済が不況から脱するためには、産業界が新規事業開発に成功し、経済を新しい成長路線に乗せなくてはならない。そして、この新規事業開発に成功するためには、新規事業を行なうための余裕・適切な開発目標の設定・設定した開発目標に向けての当事者の適切な挑戦力・不足経営資源の調達の四つが必要である。
このように考えると、わが国政府の不況対策は 「あと一歩」のところまで来たと言える。なぜなら、過剰設備廃棄は新規事業開発のための余裕づくりに、「新規事業を立ち上げるうえでの難関は人材確保」という現場の声を受けての「失業防止よりも流動化」への政策シフトは不足経営資源の調達に結びつくからだ。
大企業から中小企業への人材のシフトがこの人材の流動化に期待されていることであるが、現実は甘くない。なぜなら、「プライドだけが強く、新しい就職先の社風に馴染もうとしない」などなど、大企業を長年勤め上げた中高年者は中小企業の現場で歓迎されない場合が少なくないからだ。
人材が量的に余っているのは大企業。比較的不足しているのはベンチャー企業など新しい産業分野の中小企業。
どうしたら、人的資源を大企業から中小企業に円滑にシフトできるのであろうか。次のようなことの実施を提案したい。
大企業からの転出予備軍の方々から、「かくかくしかじかの理由により、かくかくしかじかの新規事業をやりたい。あるいはやるべきである」といったような内容の論文を募集する。この論文を新規事業の種類別に分類する。この分類別に論文提出者をグルーピングし、新規事業開発計画策定のためのプロジェクト・チームを発足させる。
上記「プロジェクト・チーム」の発足にこぎ着けさえすれば、新規事業開発は成功するのであろうか。「これからはそうはいかない」と言わざるを得ない。なぜなら、工業型製品の製品技術が成熟した、大競争時代における新規事業開発を成功させるためには、豊かな構想力に基づく事業計画並びに粘り強い挑戦力が必要不可欠であるが、この両方とも、期待しにくいからだ。
なぜか。これまでのわが国企業経営においては、無味乾燥な数字羅列型の事業計画書が当り前であることに典型的に表れているように、構想力・独創力は必要とされなかった。したがって、「構想力・独創力を今発揮せよ」と言われても無理である場合が多いのが現状だからだ。
また、先発企業の成功実績に基づく「カイゼン」があまりにも長いこと続いていたために、未知への挑戦を果敢に行う精神力が鍛えられていない人が多いからだ。
それでは、政府が用意してくれた新規事業開発の環境は宝の持ち腐れにならざるを得ないのであろうか。「否」である。なぜなら、適切な質疑応答は次のような効果を連続的にもたらすことを可能にするからだ。
頭の中を整理しきれる。問題意識が旺盛になる。情報の取捨選択並びにスポンジのような知識吸収が進む。その結果、天啓のようなひらめきを得ることができる。そして、質疑応答の結果を新規事業開発当事者が主体的にまとめあげると、苦労したが故に、粘り強い挑戦力に結びつく、執着心が生まれる。
イギリスで古くから伝えられている娘向けの「結婚を申し込まれても直に頷いてはならない。三度断りなさい」という金言は、上記「執着心」を夫となる男性に植え付けるための智恵なのだ。
それから、上記した「ひらめき」だが、適切な質疑応答を行うことにより、二つの局面で生まれることに注目する必要がある。ひとつは事業計画策定段階。一つの目的に向けて知識が整理されたり、補完されて始めて旺盛な問題意識が生まれ、この旺盛な問題意識がひらめきをもたらすのだ。
もうひとつは事業計画実行段階。苦労して事業計画を策定したので、当事者はなんとかして新規事業開発に成功したいという想いが強い。また、「もしかしたら」という心配も生まれる。この想いや心配が微妙な環境変化にも気付くようにしてくれる。つまり、ひらめきが生まれやすくなるのだ。
ところで、適切な質疑応答とはどんなことを指すのであろうか。相手の発言の趣旨を見抜き、「あなたのおっしゃっていることはこういう意味ですか」と問い返す。そして、同意が得られたら、「ということはこういうことも言えるのですね」といったようなやりかたで会話を発展させる。
ポイントをついた調査と独創的構想の並行を可能にするのみならず関係者の挑戦精神を適切な形で旺盛にする。これが適切な質疑応答であることに注目して頂きたいものである。
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