5. 見えてきた新しい成長機会
問 企業の新成長機会は実に沢山あることが分かり、心強い限りですが、でもすべては「地球全体の工業開発が間違いなく進む」との見解を前提に推論をした結果です。したがって、大前提が崩れると、前途に浮かび上がってきた商売の種は消え去ってしまいます。この大前提は大丈夫なのでしょうか。
答 地球全体の工業開発が進むことはいかに先進国が脱工業化を進めても地球の破壊に結びつく危険性があるので、先進国が結託して開発途上国の経済開発を抑止する筈と考えているのでしょうが、先進国は逆に地球全体の工業開発を進めざるを得ない事情があるのです。
なぜなら、先進国には米国の累積貿易赤字と西欧先進国の高い失業率という二つの冷戦構造の置き土産がある上に、日本もこれから高い失業率を抱えるだろうことが予測できるからです。国内の政治的圧力を考えると、先進国経済は拡大均衡を図るしかない、この拡大均衡のためには先進国は第三の輸出先を拡大するしかないと考えているのです。
問 冷戦構造の置き土産や日本の失業率が拡大しかねないことはよく理解できます。しかし、「だから第三の輸出先拡大」とするのはおかしいのではないでしょうか。
米国の累積貿易赤字は自らの過剰消費体質が招いたものですから、経済の縮小均衡で対応すべきだし、西欧先進国や日本は内需拡大により失業率を低下させるべきだと思うのです。
ヨーロッパ共同体や北米自由貿易協定などの地域主義、日本の母産業都市機能の拡散、それに、この「問答集」の前のところで出てきた地方分権度の強化という世界の新しい潮流が加わるので、各国だけではなく、各国の地域社会が生き抜きをかけた競争を行うでしょう。他国や他地域社会に比べてより多くのヒト・モノ・カネを惹きつけるためにはそれ相応の魅力がなければなりませんので、魅力アップのために各地域社会は競って社会資本整備などに投資を行い、これが各国の内需拡大に結びつくと思うのです。
答 米国が怠慢だったから巨額の累積赤字ができあがったのであれば、米国に対して経済の縮小均衡を国際世論として求めることができます。しかし、実際のところは米国の怠慢や自己都合だけで赤字を続けてきたわけではなく、日米欧同意の下で米国の過剰消費体質ができあがったのです。
自由世界を守るための軍拡、米国の内需を突出する形で引き受けてくれたラストリゾート役、米国のラストリゾート役への依存度を極度に高めた二度のオイルショック、この三つのことを忘れてはならないのです。
それから、ヨーロッパ共同体の内需拡大効果はすでに享受され済みの部分が多いのです。この構想は今更始まったものではありませんから。それでも、西欧先進国の高い失業率は残ったままなのです。
日本の母産業都市機能の拡散はこれからですが、財政難の折、地方分権を進め、公共サービスを民営化し、地方自治体の財源を社会資本整備に集中的に使い、足りないものは民間からも投資させるなどの手順を踏まなくてはなりませんので、時間がかかります。
以上から明らかなように、先進国が抱える問題解決のためには、地球的規模での工業開発を進め、日欧米は第三の輸出先を拡大しなければならないのです。だからこそ、持続ある開発を可能ならしめる新成長機会を推論してきたのです。
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