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→顧客を唸らせるコンサルティング・セールスを行うことができさえすれば、オールド・エコノミー企業でも躍進できる ― NHKテレビに紹介された「住友商事の戦略ビジネス発掘タスクフォースの奮戦記」から考える〈2000/4/14〉

 わが国の企業は模倣から独創への転換を迫られて久しい。にもかかわらず、この転換が思うように進んでいない。だから、日本経済の本格的回復が遅れているのだ。このように言うと、「我々は『カイゼン』の経験しかないからなあ」という嘆き節がついつい出てきてしまいがち。

 ところが、去る2月25日にNHKテレビで放映された「儲かる仕事を探せ〜総合商社、課長たちの奮闘記〜」に出てくる課長たちは「経験がなくても事業の創造は可能である」ことを教えてくれるものであった。この番組を提供したNHKに拍手喝采したい。(筆者はビデオ録画してあったものをごく最近拝見し、「良いものを見せて頂いた」と感謝している。と同時に、同種の報道が今後多くなることを期待したい)

 しかしながら、この戦略ビジネス発掘タスクフォースが住友商事の再生の役割を担うものであるとするのであれば、別の評価をしなければならない。なぜなら、魅力的な事業計画を生み出すために必要不可欠な作業プロセスを踏まなかったために、タスクフォースは中途半端な形で期限切れとなってしまっていたからだ。

 同社経営陣の狙いは「自分たちの仮説を検証する。と同時に、第一線の人間が事業創造の適性を持っているかどうかを知りたかったのだ」ということであったのかもしれない。

 もしそうであるとしたならば、この狙いには賛成しにくい。なぜなら、第一線の課長7人をこのタスクフォースに5ヶ月間専任させた費用並びに蒙ったであろう大きな機会損失があるからだ。

 このタスクフォースの仕事ぶりの何処に問題があったのか、どうすべきであったのか。時間的制約のあるテレビ画面から得られた情報という限界はあるが、業種を問わず、他の企業が新規事業開発を行う際の道しるべとなるように、私の考えを紹介したい。

 住友商事の年間売上高はこの10年で半減して約10兆円になってしまった。屋台骨を支えてきた鉄鋼と機械の取り扱いが激減してしまったからだ。そして、現状路線を歩む限り、業績を回復させることは困難であろう。伝統的な取扱商品の売上減に結びつく日本経済の脱工業化が進むからだけではない。社会的に有意義な付加価値をつけることができない中間業者の排除に結びつく、インターネットの普及もあるからだ。

 このような認識があるからこそ、「生き抜くためには、屋台骨を支える新しい事業を開発しなければならない」ということで、同社は営業の第一線を取りしきる課長7人をメンバーとする「戦略ビジネス発掘タスクフォース」を結成することとなったのであろう。

 にもかかわらず、「1を10にする仕事はやったことがあるが、ゼロから新しい仕事を創るのは始めて」とメンバーの一人が告白するように、誰一人としてこの種の仕事を遂行するために必要な訓練を受けたことがないし、指南役のコンサルタントを登用している様子はなかった。それにしては、見事な仕事ぶりであった。

 しかしながら、戦略ビジネス発掘タスクフォースの作業の延長線上には、住友商事がかっての輝きを取り戻すイメージが浮かんでこない。

1、タスクフォースは何をどのように行ったのか

 昨年8月に7人をメンバーとするタスクフォースが発足した。2か月半を費やして、北極航路の開発、永代供養、地雷除去等々のアイディアが50リストアップされた。そして、この50のアイディアを五つ(消費者対応型ビジネス/再生可能なエネルギー/ベンチャー企業サポート・ビジネス/元気なシニア向けビジネス/医療機関サポート・ビジネス)に絞込み、詳しい調査が10月半ばから行われることとなった。

 しばらくして、担当常務に報告が行われ、「元気なシニア向けビジネス」が候補から外されることとなった。同常務の「年収の1割を貰うのか、それとも手数料を貰うのか」の指摘にあるように、定年退職者の再就職支援はビジネスとして成立するイメージが湧きにくい。これが候補から外された理由であった。その結果、残された4つの候補の詳細調査を7人で行うこととなった。

 「ベンチャー企業支援ビジネス」と「消費者対応型ビジネス」の追いかけぶりがテレビで放映されたので、その様子を紹介する。

 まず、ベンチャー企業支援ビジネス。「一部の天才だけではなく、愚直なサラリーマンでもキャピタルゲインを」のモットーの下に、住友商事のベテラン社員をベンチャー企業の社長の右腕として転籍させる。と同時に、住友商事並びに本人が出資し、キャピタルゲインを狙う。これがベンチャー企業支援ビジネスの概要。

 20社のベンチャー企業への売り込み訪問にこぎ着けたが、惨憺たる結果が続いた。なぜなら、訪問先のベンチャー企業の社長から次のように言われてしまったからだ。

 「東大法学部出身の大企業の総務マンが訪ねてきましたが、理論・理屈だけででーんと座っているような人は要らないのですよ。我々はゼロからのスタートですから、掃除も経理でも何でもやる人が欲しいです」(創造的な参謀としての能力があるとは思われない。さりとて、行動力もない。要するに中途半端。こういうことを言いたかったのであろう)

 「期限付きの人材リース、しもか、次につながる若手が欲しいです。40才台、50才台の人は要りません」(中高年者は頭が硬くて、プライドが高い。だから、使いにくい。こういうことを言いたかったのであろう)

 タスクフォースは現状認識不足を露呈するばかりで、座礁に乗り上げてしまった。と思いきや、タスクフォースの期限切れぎりぎりのところで、一社だけから色よい返事を得ることができた。

 「海外での事業拡大を考えているので、資金と海外経験のある人材が欲しかったのです」と反応してきた、海外旅行に必要な情報を販売する企業が現われたのだ。

 「1社だけでも実績を作りたい」と考えていたので、担当者は大喜び。早速、同僚である人事課長と掛け合った。ところが、今度は社内の壁にぶつかってしまった。

 「どうして出向では駄目なのか。社外に転出した人は全員出向者なのです。辞めて行った前例がない」「どうしてキャピタルゲインをインセンティブにしなければならないのか。他の人にはそんなインセンティブを与えていません」「住友商事として有望企業に投資して、キャピタルゲインを得ることを優先すべきですよ」と言われてしまったのだ。

 新規事業の開発は経営戦略の方向転換を伴うもの。このことが衆知徹底されていない限り、この人事課長の態度は正しいと言わなければならないであろう。新規事業開発の場合は、市場性や事業化のための条件を明示した開発目標代替案を数多く作り、企業としてスクリーニングすることの方が先決なのだ。

 次に消費者対応型ビジネス。出世志向や伝統志向などの性格をインプットすると、性格に相応しい製品・サービスがアウトプットされる。これをインターネットでやろうというのが「消費者対応型ビジネス」の概要。

 消費者を囲い込む販売事業であるので、「先端的商社になれるかもしれない」ということで担当者は意気揚揚としていた。ところが、性格診断もできるという意味で、住友商事の案の上をいく事業を既に展開している。しかも、特許出願中。こういうベンチャー企業が存在していることが判明。そこで、商品開発に結びつけるということで、別の特許を取る。こういうことで捲き返すこととなった。

 あっという間に約束の5ヵ月が経過し、常務以上が出席する中で、社長への報告が昨年の12月28日に行われた。

 「ベンチャー企業支援ビジネス」に対しては好反応が得られたが、「消費者対応型ビジネス」には注文がつけられた。副社長が「消費者のニーズを分析するのはよいこと。しかし、過去のデータを分析するので、せっかく開発したシステムが陳腐化しやすい。したがって、リスク回避のために初期投資を少なくして欲しい」と指摘したのだ。(他の2テーマについてはテレビ放映されなかったので、不明)

 「よく検討して皆さんの努力に応える返事を後日行いたい」という社長の言葉で2時間に及ぶ報告会が終了。今年の1月に入って、7人の内、2人がタスクフォースに留まり、4候補とも継続調査を行うこととなった(ここでテレビの放映が完了)。

2、儲かる仕事の探し方がシステマティック性に欠ける

 魅力的な事業計画を生み出すために必要不可欠な作業プロセスを踏まなかったために、中途半端な形で期限切れとなってしまっていた。このように冒頭で述べた理由を例示すると、次の通りだ。

(理由の例1)調査の進め方が創造的ではない

 会議室に集めた中高年者の生の声を映像経由で別室で見聞する。「元気なシルバー支援ビジネス」の感触を掴むために、調査の初期の段階でこのような手法がとられた。これでは儲かる仕事を創るための調査には結びつきにくい。なぜなら、次のことが指摘できるからだ。

 文献調査や専門家との議論の結果を踏まえて、仮説としての結論を出す。そして、この仮説の検証と肉付けを行うために、アンケート調査やフィールド調査を行う。言い換えれば、「何を知っていて何を知らないか」を明らかにしてから、調査のステップを進める。このような調査の鉄則を踏まないと、例えば、「なんだ、あの人の意見はこの文献に載っているではないか」ということになってしまいがちなのだ。

 このような調査の仕方は時間を浪費するだけではない。納得のいく掘り下げができないので、魅力的な事業構想に発展させることができない。調査の鉄則を踏まないと、こういう致命傷に発展しかねない。

 事業計画書を魅力的にするためには、ひらめきを生のままで文章化するかどうかは別にして、連発されたひらめきを反映したものでなければならない。ひらめきは独創の源だからだ。それではどうしたらひらめきを連発させることができるのか。しっかりとした仮設を構築し、フィールド・サーベイでこの仮説を検証する。ひらめきを生むためには、こういうプロセスを踏まなければならない。

 仮説構築の前にひらめきがある。こういう場合があるのは言うまでもない。このひらめきを踏まえて仮説を構築し、仮説が構築させているから、より発展したひらめきが生まれやすくなる。ここで言うひらめきとはこの段階でのひらめきのことなのだ。

 「こうであろう」「こうでなければならない」という思い込みのような仮設が創り出す強烈な問題意識は2段階にわたる劇的な効果を生み出すことを、しっかりと認識しなければならない。

 情報の取捨選択並びにスポンジのような円滑な知識吸収を可能にする。言い換えれば、問題解決に必要な知識を効率的に頭の中にぎっしりと詰め込むことが短時間でできるようになる。これが強烈な問題意識が生み出す第1段階の効果。頭の中にぎっしりと詰まった知識からひらめきが連発する。これが強烈な問題意識が生み出す第2段階の効果なのだ。

 ひらめきを連発させ、その結果を論理的にまとめあげる。これが創造性の高い事業計画を創る秘訣。したがって、仮設としての結論を調査の途中で設定することは必要不可欠なのだ。

(理由の例2)機会損失が発生している

 ベンチャー企業の社長は相手が天下の住友商事だから会談に応じてくれた。しかしながら、前述したように、軽くあしらわれてしまった場合が多かったようだ。誰がやっても同じ結果であったかどうかを考えてみる必要があろう。やり方次第では、興味を示す企業がもっとあったはずだ。なぜなら、応対辞令の巧拙が人との出会いの結果を決定することが多いのが通例だからだ。

 不利な第一印象を相手に抱かれると、ブランド力がない場合は後々響く。(住友商事はベンチャー企業との取引実績がないので、この場合は本当の意味でのブランド力がないと思わなければならないであろう) したがって、準備万端整ってからベンチャー企業を訪問すべきであったであろう。

 ベンチャー企業の支援ビジネスの開発は「任期の5ヵ月以内に1社だけでも実績を作りたい」という方針の下に開始された。にもかかわらず、ベンチャー企業の社長との応対辞令が適切でなかったために、興味を示してくれた企業は一社のみになってしまった。このように反省すべきであろう。(後でどうすべきであったかを説明したい)

 「元気なシルバー支援ビジネス」と「ベンチャー企業支援ビジネス」を槍玉に挙げたが、他についても同じことが言えるのではなかろうか。なぜなら、タスクフォースの7人は作業を分担してはいたが、協調的に行われていた模様。したがって、調査のあり方が適切ではなかったは、この二つに留まらないものと思われるからだ。

3、構想力不足が個々の案件に露呈されている

 提起される開発目標案は、投資家(この場合は住友商事経営陣)が「なるほどねえ、よく考えてみれば、そういう市場があるんだよなあ。実に面白い」「うーん。だったら、競争に勝てるかもしれない。このアイディアを全力で詰めたい」と興奮して反応するようなものでなければらない。(「賛成者の少ないアイディアほど大化けする可能性がある」ということがよく言われるが、プレゼンテーションの仕方が悪いから大多数の賛成が得られない場合が多いのだ)

 ところが、タスクフォースから提起されたアイディアは、残念ながらこのようなイメージを抱かせるものにはなっていなかった。だから、社運を賭けたプロジェクトでなければならないにもかかわらず、タスクフォースは7人から2人に減らされた上での、継続調査になったのであろう。

 それでは、知的興奮を呼ぶような開発目標案にまとめあげるためには、どうしたらよいのか。前述したように、ひらめきを連発させ、このひらめきを論理的にまとめあげる。こういうことを可能にするような作業を行わなければならない。ところが、前述したように、儲かる仕事の探し方がシステマティック性に欠けていたために、このようなことは望むべくもなくなってしまった。

 上記したことを具体例に基づいて説明すると、次の通りだ。

 「定年退職者の再就職支援ビジネス」の中間報告を担当常務に行った際、「年収の1割を貰うのか、それとも手数料を貰うのか。いずれにせよ、事業として成立するイメージが湧きにくい」ということで歿にされてしまった。

 こういう結果になってしまったのは、「定年退職者の再就職支援ビジネス」に事業性がないことが原因しているのではなく、事業構想に魅力がなかったからなのであろう。「定年退職者の再就職支援ビジネス」を「ベンチャー企業支援ビジネス」と合体させる。例えば、こういう考え方であったならば、歿にならなかったのではなかろうか。

 「ニーズの箱」(ベンチャー企業が必要とするヒト・モノ・カネなどのリソース)と「シーズの箱」(中高年者のプロフィール)を別々に設け、そのすり合わせを行い、同意が得られた結果に基づいて、住友商事がヒト・モノ・カネを提供し、それによって利益をあげる。つめは無論必要だが、このような「定年退職者の再就職支援ビジネス」を「ベンチャー企業支援ビジネス」と合体させることが考えられるのではなかろうか。

 このように言うと、タスクフォースのメンバーから「ベンチャー企業のほとんどは住友商事の力を必要としていないのですよ」「中高年者を歓迎する企業はほとんどないのですよ」という声が返ってこよう。この声を鵜呑みにしてよいのであろうか。「否」である。

 ベンチャー企業の事業内容を将来展望を踏まえて分析し、機会損失と脅威を相手に知らしめる。そして、機会損失をなくし、脅威を回避するための経営のあり方の提案を行い、この提案の中に、住友商事が提供できるヒト・モノ・カネなどのリソースを位置付ける。こういう提案営業が考えられるからだ。

 住友商事の言い分に聞く耳がなくても、提案を受けた側が機会損失や脅威を後日認識すれば、「住友商事の言うことを聞かなくては」と思うようになり、この提案営業はボディーブローのように効いてくるようになるであろう。(「政治は言葉の技術なり」という格言の真意を認識しなければならない。だから、「応対辞令の巧拙が人との出会いの結果を決定する」と前述したのだ)

 ここまでは納得しても、「中高年者は歓迎されないから」と否定的な意見が出されるかもしれないが、この反論は短絡的過ぎる。なぜなら、次のことが指摘できるからだ。

 中高年者が嫌われる本当の理由は年令ではなく、固定観念で凝り固まっていることからくる使いにくいさにあることが多い。そして、この固定観念の打破は不可能ではない。

 「こういう仕事を是非やりたい。そのために、自分は精一杯の努力をする」という結果を生み出す、個人ビジョンの開発を行う。そして、「様々な価値観や考え方がある。それぞれの価値観や考え方はこういう場合には通用するが、こういう場合には通用しない」ことを、その作業の中でしっかり学ばせることが可能だからだ。

 このように言うと、「ビジョン開発の効果は認めるが、専門家の登用が必要だ。一体誰がこの費用を負担するのか」という意見が出よう。だが、この費用についてはそれほど心配する必要はないのではなかろうか。人間改造の結果、再就職できるのであれば、中高年者は自己投資のために自分の貯金を使うだろうからだ。

 それから、中高年者の再就職支援とベンチャー企業の支援を一体化させた事業は国内に限定する必要はない。外国でも可能なはず。なぜなら、アジア経済開発の一つのネックは衆知のように、スキルを持った人材不足にある。上記のように改造された中高年者はアジアの企業から大歓迎されるはずだからだ。そして、これを切り口にアジアでの様々なベンチャー企業支援ビジネスも可能となるのではなかろうか。

 投資案件になるに相応しい開発目標に仕上げるためには、ひらめきをより連発させた上で、その結果を論理的にまとめあげる。言い換えれば、魅力的な定性化を行う。その上で、市場性を判断するための定量化を行わなければならないのは言うまでもない。

 タスクフォースから提起されたアイディアの魅力不足は上記したような構想力不足から来るだけではない。データ解析不足も窺われる。例をあげると次の通りだ。

 「消費者ニーズ対応ビジネス」の対社長プレゼンテーションを行った際、副社長から「消費者のニーズを分析するのはよいこと。しかし、過去のデータを分析するので、せっかく開発したシステムが陳腐化しやすい。したがって、リスク回避のために初期投資を少なくして欲しい」と指摘された。

 この指摘を鵜呑みにすべきであろうか。「否」である。なぜなら、過去のデータ分析であっても、未来予測に結び付けるやり方がある。このやり方を納得いく形で説明すれば、副社長の前向きの賛同を得られるだろうからだ。

4、必要不可欠であるオール住友商事としての発想が不足している

 日本経済の脱工業化、社会的に有意義な付加価値をつけることができない中間業者の排除に結びつく、インターネットの普及。この二つが総合商社の前途を暗いものにしているのは事実。しかしながら、見方を変えると、総合商社の前途には洋々たるものがある。理由を例示すると、次の通りだ。

(理由の例1) 産業界を横断した製品・サービスを取り扱ってきているパワーを必要とする時代がやってきた

 市場が未成熟であれば、製品・サービスは個々で勝負できる。しかしながら、市場が成熟してくると、そうはいかなくなる。なぜなら、製品・サービスの「選択性と組み合わせ性」の妙が必要になるので、大きな隙間市場のニーズを充足し切る「製品・サービスのパッケージ」(先に紹介した消費者ニーズ対応ビジネスがよい例だ)を提供しなければならなくなるからだ。

 ということは総合商社に好機到来なのだ。総合商社は産業界を横断した商品を取り扱ってきている。あるいはその可能性を持っているからだ。

(理由の例2)取引先は「総合商社ならではの経営提案に耳を傾けたい」と思うようになってきている

 東西冷戦構造の終結はわが国経済に有利に作用できるはずのものであった。旧共産圏諸国はわが国の競争相手ではなく、市場と供給源の両方の提供に結びつくはずであったからだ。ところが、系列取引・終身雇用制度などの長期コミットメント体制並びに各種規制などが災いして、わが国産業界は柔軟に高度化(脱工業化など)できなかったために、そうはならずに供給能力過剰という現象に結びついてしまった。

 しかしながら、遅れ馳せながらではあるが、日本経済再生の条件は整いつつある。周知の通り、わが国産業界の柔軟な高度化(脱工業化など)の足かせとなっていたものが取り除かれつつあるからだ。各企業がダイナミックに変化し、躍進する好機が到来したのだ。

 しかしながら、わが国の企業のほとんどは過去の延長線上を突っ走ることを得意としてきたために、この好機を生かし切れそうもない。そして、経営者はこのことをうすうす気が付いている。「チャンスなのになあ、でも、どうしたらよいのか分からない」と思っている経営者が少なからず存在するはずなのだ。

 一方、総合商社は総合力プラスアルファを発揮できさえすれば、相対的に優れた見識を提供できる。そして、総合商社は経営のあり方を全面的に見直さなくてはならない時期に来ている。「魚心に水心」が成り立つ条件が整ったのだ。

 ところが、テレビを見る限り、タスクフォースからはこのような問題意識が伝わってこなかった。オール住友商事の観点がないのだ。これでは到来しつつあるビッグチャンスを見落とすことになってしまうであろう。

5、顧客が抱える個性的問題を総合的に解決できる企業を目指そう

 米国のシスコシステムなどのように急成長する市場で優位性の高い技術を持っているのであればともかくも、そうでなければ、特定市場のニーズに合致できる製品・サービスをパッケージで提供するしかない。例えば、前述した消費者ニーズ対応型ビジネスのように。

 但し、このような事業を展開するためには、二つの能力が必要となる。顧客のあるべきライフスタイルや経営スタイルを提案する、コンサルティング能力がひとつ。もうひとつは、同意されたライフスタイルや経営スタイルを遂行するに必要な製品・サービスを遅滞なく一括供給する能力。

 したがって、特定市場のニーズに合致できる製品・サービスをパッケージで提供する事業の将来性が豊かだからといって、すべての企業がこのような事業を展開できるわけではない。

 その点、総合商社は産業界横断的な取引関係を持っているので、このような事業を展開しやすい立場にある。

 ところで、特定市場のニーズに合致できる製品・サービスをパッケージで提供する事業は、性格やライフスタイル別に製品・サービスの一括供給の可能性を持つ、「消費者ニーズ対応ビジネス」などに限られるのであろうか。「否」である。

 なぜなら、電脳ショップを目指すコンビニエンス・ストアーとそうではないコンビニエンス・ストアーとでは店舗の構成要素、商品構成が異なる。同じ電脳ショップを目指すコンビニエンス・ストアーであっても、地域や競合特性によって更に異なるように、同業種であっても、経営スタイルの違いによって、必要とする製品・サービスの組み合わせが異なる。例えば、こういうことが言えるからだ。

 それから、古くなったものを活性化する需要だってある。先に取り上げた中高年者の人間改造だけではない。老朽化したビルの省エネルギーだってある。これらだって、コンサルティングの結果を踏まえて、独特の製品・サービスのパッケージ化が可能であろう。

 追いつき追い越せの形で企業経営や個人の生活の合理化・高度化が行われてきた。この段階では供給業者は汎用的な製品を一方的に押し付けることで事足りた。だが、これからはそうはいかない。顧客の個性的なニーズに対応しなければならない。そのためには、顧客が抱える問題解決策を提言し、顧客の個性的な発展のための製品・サービスのパッケージを提供する能力が必要になってくるのだ。

 だが、ここで留意しなければならないことがある。顧客の個性的ニーズを完全に満足させるためには、パッケージを構成する製品・サービスの種類は無限に近いほどに数多くしなければならない。さもなくば、顧客を惹き付けることに成功しても、購買は別のところで行われてしまい、コンサルティング体制のための投資が無駄になってしまう。

 パッケージを構成する製品・サービスの種類は無限に近いほどに数多くすることは昔であれば夢であった。だが、今は違う。情報技術の発達によって現実のものにすることができるようになった。なぜなら、アパレルを例にとると、バーチャルの世界でどんな色合いや風合いの注文でも受けられるようにして、生産の仕方を臨機応変に変えられる自動化工場で対応すればよいからだ。

 上記のような離れ業を演じることができる、情報技術は誰でもその気になれば入手できるようになった。しかも、総合商社は、問題解決のためのコンサルティング並びに製品・サービスの調達の両面において、あらゆる業種の企業に容易にアクセスできる立場にある。

 住友商事は迷うことなく、「企業や個人の抱える問題解決策を提案し、この問題解決策としての製品・サービスを遅滞なく提供する企業である」と自らの未来像を規定してもよいのではなろうか。(このような未来像を実現させるためには、製品・サービスの無限の選択と組み合わせができる、シソーラスを更新的に保有しなければならないのは言うまでもない)

 新聞市場で伝えられている、インターネット検索サービス事業への進出は、上記した未来像実現のための、大きな大きな布石となるであろう。

6、現事業の活性化が未来像に結びつく、シナリオを描こう

◎相乗効果の高い事業展開を心がけよう

 この未来像を是認できるとした場合、どのような手順を踏んで未来像を実現させたらよいのであろうか。

 消費ニーズ対応型ビジネス並びにサラリーマンの再就職支援事業の展開を通じて、消費者並びに働く人の意識動向を確実にキャッチし続ける。消費者並びに働く人の意識動向をよく認識していることをも武器にして、新旧の取引先の経営を支援する。こういうやり方で、未来像を着実に実現させることが考えられるのではなかろうか。

 タスクフォースが提唱したインターネットを使った「消費者ニーズ対応型ビジネス」はオール住友商事として取り組むべきであろう。新たに筆頭株主になった「西友ストアー」や子会社「サミットストアー」の支援事業として位置付ける。前述したような中高年者の支援だけではなく、消費者データの開発をも狙った、サラリーマンのビジョン開発を行う。こういったことが考えられるからだ。

 だから、「中高年ではなく、サラリーマンの再就職支援事業の展開」と上記したのだ。中高年ではなく、サラリーマン全体を対象にした方が高い相乗効果が期待できる。のみならず、再就職支援事業としての広がりも期待できよう。なぜなら、自立と自律が必要になったのは、何も中高年者に限ったことではなく、サラリーマン全般について言えるからだ。

 「西友ストアーやサミットストアーに行くと、自分の性格やライフスタイルに合った商品が見つかる」 こういう評判が市場で確立されれば、サミットストアーの競争力は磐石のものとなろう。そして、「このような事業展開をローカルに限定するのは勿体無い」という贅沢な悩みに対応するために、インターネット小売業がある。このようにすべきなのではなかろうか。

 既に十分に認識されているとは思うが、西友ストアーやサミットストアーはデビットカードなどを導入することにより、売れ筋商品の開発力が飛躍的に強化できることを強調しておきたい。

 特定の顧客の商品購買動向がどのように変化し続けているかを示す時系列データ、顧客間の商品購買動向がどのように違うかを示す横断比較データ。この時系列並びに横断比較ができるデータが蓄積できさえすれば、しめたものだ。なぜなら、情報解析力さえあれば、横断並びに時系列比較できるデータに基づいて先を的確に読めるようになり、業績拡大はいとも簡単にできるようになるからだ。

◎顧客の業績拡大策を提言できるようになろう

 工業化の推進が限界に達したために、住友商事の業績が低下し続けることになってしまった。だからといって、住友商事の保有する市場に新しい成長機会がないわけではない。なぜなら、前述したように、住友商事の取引先は激変した環境に適応すべく、例外なく新しい活路を模索しているであろうからだ。顧客が抱えている問題の解決が新規事業。このように考えるべきであろう。

 但し、住友商事がこの新しい成長機会をゲットするためには、単純な物販業から脱しなければならないことは言うまでもない。顧客の業績拡大策を提案する。顧客が業績拡大のために必要だが、不足しているヒト・モノ・カネなどを提供する。このような提案営業を行えるようにならなくてはならないのだ。

 このようなことができ、かつ全社的な協力体制が確立できさえすれば、住友商事はマーケットイン・アプローチによる、低リスクの大型の新規事業を展開できるであろう。したがって、住友商事が優先的にとりこむべき能力は顧客の業績を拡大させるための提案力だと言えよう。

 住友商事にとって異質と思われる、この能力をどうとりこむかという問題が生じるが、新たな進出が報じられている、投資顧問業を拡充させる中で上記の能力をとりこむことが考えられるのではなかろうか。なぜなら、投資顧問業を長期にわたって成功させるためには、企業に対してかくあるべしを提言できる能力が必要なはずだからだ。(投資顧問業に必要な能力と取引先の業績拡大策を提言するための能力とには共通する部分が多いと考えてもおかしくないであろう)

 住友商事がこのような能力の開発に成功したからといって、提案営業が百発百中成功するわけではない。提案が適切であっても、相手企業側にそれだけの器量がなければ提案内容は消化不良となってしまうからだ。

 現在の取引先を一番大事にしたい。しかしながら、聞く耳を持たない相手があるのは避けられない。言い換えれば、顧客の業績を拡大させるための提案を適切に行う能力を使いきれない。ここに、住友商事の「ベンチャー企業支援ビジネス」の意義がある。このように考えるべきではなかろうか。

 それでは、どのようにして「ベンチャー企業支援ビジネス」を行うべきか。ベンチャー企業に提供したい物が先にある。こういう従来的な発想を捨てるべきであろう。ベンチャー企業の実態を認識し、相手に「たいしたものですね」と言わせるぐらいの提案をする。そして、洞察したニーズに応じた、ヒト・モノ・カネなどを提供する。こういうことができなければならないであろう。

 企業や個人の抱える問題解決策を提案できる。そして、問題解決のための製品・サービスをパッケージとして提供する。そのために、製品・サービスの無限の選択と組み合わせができる、シソーラスを更新的に保有している。

 上記が住友商事の目指すべき未来像のひとつの例であったが、上記した形で、新規事業を展開していけば、この未来像に自ずと収束していくであろう。但し、製品・サービスのパターン別の営業部門にするなど、組織の変更がいずれ必要になるのは言うまでもない。

7、独創性とコンセンサスを同時に実現させよう

 過去の延長線上ではなく、未来から眺めて現事業を強化する。こういう形で企業の未来像実現手段としての新規事業開発を行うのであれば、住友商事の「戦略ビジネス発掘」のあり方は自ずと変ってこなければならない。

 未来像を描き、これを実現させるためのシナリオを創る。住友商事の各部門がこの作業を行い、これを一箇所に集める。その結果に基づいて、断章取義(雑多な知識やデータに基づいてブレークスルー発想を行い、この雑多な知識やデータを構成要素とする独自の主張を提起する。言い換えれば、雑多な知識やデータを音符のように用いて作曲のように行う知的作業のことを断章取義という)を行い、住友商事としての事業展開シナリオを策定する。

 住友商事としての事業展開シナリオ策定作業で気をつけなければならないことがある。部門別の事業展開シナリオを編集するのではなく、創造性の高いものにするためには、ブレークスルー発想しなければならない。だからといって、各部門の事業展開シナリオを無視するような文章化をしてはならない。

 「かくかくしかじかのように解釈して、このようにまとめた」「このように考えたのはこことあそこを組み合わせた結果なのだ」というような付言をしなければならない。だから、「ブレークスルー発想した問題解決策の説明材料として、収集した情報を使う」としたのだ。このように工夫を凝らすことによって独創性と同意性の両方を実現できるであろう。

 大きな隙間市場を狙った製品・サービスのパッケージ提供が各部門のハイライトとなるであろう。したがって、住友商事としての事業展開シナリオを策定してみると、現在の組織では都合が悪いことが出てくるであろう。そうなれば、市場が要求する形に添った組織編成にしなければならないのは言うまでもない。

 上記「独創性と同意性の両方の実現」のためには、最初が肝心。現業部門の人は能力とは関係なく、過去の延長線上でしか考えなくなってしまいがち。したがって、部門別の事業展開シナリオの策定を現場だけに任せてしまうと、尺取虫的な発想が行われ、魅力に乏しい原案ができあがってしまい、全体の足を引っ張りかねない。

 このようにならないためには、任命されたタスクフォースが知らず知らずの内に指導力を発揮できるような工夫を凝らす必要があろう。タスクフォースのメンバーが部門別事業展開シナリオ策定作業のための会議に手分けして参加し、会議を巧みにリードすることをこの工夫として採用することを薦めたい。なぜなら、Q&Aには次のような絶妙なやり方があるからだ。

 相手の発言をたくみに引き出す。そして、引き出した発言ひとつひとつに、「あなたがおっしゃることはこういうことですか」「だとすると、こういうことも言えると思いますが、いかがでしょうか」といった具合に、連続的に反応する。

 人間の頭の中には膨大な情報が詰めこまれているが、そのほとんどは未整理。適切な刺激を受けないと永遠に陽の目を見ることがない。そこで、相手の発言の言葉尻ではなく、趣旨を洞察し、その結果を相手に伝える。

 このような質疑応答を行うと、短い時間で信頼関係を築くことができるようになる。なぜなら、「自分のことを深く理解して欲しい。でも、そのようなことができる人はなかなかいない」という想いを誰しも抱いている。そして、上記のような質疑応答はこの痛切な想いに応えるものになるからだ。

 「あなたがおっしゃることはこういうことですか」という切り返しが自分の発言に対して即座に得られ、それが自分の真意を見抜いたものであれば、仮に心の中であっても、「そうなんですよ。よく分かりますね」といって喜ばない人間はほとんどいないのだ。

8、新創業プロジェクトを発足させよう

 住友商事の戦略ビジネス発掘タスクフォースは全社を巻き込んで展開しなければならないのであった。となれば、プロジェクト名は「住友商事の戦略ビジネス発掘タスクフォース」ではなく、「住友商事の新創業プロジェクト」の方がネーミングとして適切かもしれない。住友商事を再び輝かせるためには、住友商事の現有のリソースを否定するのではなく、斬新な着眼の下に生き生きと再活用しなければならないからだ。

 そして、それ相応の組織編成が必要となろう。例えば、社長が実行委員長、担当常務が事務局長、タスクフォースが事務局のメンバー。タスクフォースのメンバーが住友商事の全組織単位の窓口役を担うなどが必要となろう。

 ところで、住友商事がこのような新創業プロジェクトをゼロからスタートさせなければならないのであろうか。「否」である。なぜなら、当初設定した50テーマをも含めて、案件ひとつひとつの概念拡大と論理化を行う。そして、その結果を一体化させる形でこれまでの作業成果すべての有効活用が可能だからだ。(概念拡大と論理化の方法については、このホームページの「ワタナベタカヤ問題解決方法とは」をご参照願いたい)

 タスクフォースが上記の作業によって住友商事の事業展開シナリオを仮説として予め創っておくことによって、前述の各部門とのQ&Aは創造性の高いものになるであろう。(「しっかりした仮説の構築はひらめきの連発に結びつく」と前述したことを思い出して頂きたい) 但し、そのためには、調査と構想を適切に並行できるコンサルタントの登用が必要となろう。

 住友商事のようなプロジェクトが先行していない場合は、社内に埋もれている、数多くの提案書を「断章取義」することにより、企業の未来像と実現策の仮説を創りあげることからスタートさせることを薦めたい。なぜなら、社内にある提案書からあっと驚くような業績拡大策を捻り出すことが可能だからだ。(筆者にこのような仕事を発注すれば、「なるほど」と必ず思われることでしょう)

 新創業プロジェクトの進め方やコンサルタントの登用の仕方については、このホームページのトップにある「企業再生の秘策(拙著「脱集団主義の時代」より)」をクリックして、「15、全員参加型の新創業プロジェクト」並びに「16、外部専門家を巧く使う秘訣」をご参照願いたい。(プロジェクトの進め方やコンサルタントの使い方は一様ではないが、企業の実態に即したやり方を決める際のヒントが得られることでしょう)

 なお、筆者に仕事の発注をご検討されるのであれば、このホームページの中にある「サービスご利用案内」を是非ご覧になり、その上で、お気軽にご連絡願いたい。

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