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2004.3.3更新 (文末の緑色の箇所のみ)

→相乗効果最大化の工夫が複合事業を成功させる ― ディズニーの収益力低下から考える〈1999/8/17〉

 ディズニーの映画興行は、アニメ「ターザン」の切符販売額が1億ドルを超えたことから明らかなように相変わらずヒットしている。そして、グループ全体の売上高も伸びている。ところが、純利益が同12%減の6億6000万ドルと、5四半期連続の減益。来年もこの傾向が続くことが予測されている。

 ディズニーに一体何が起きているのであろうか。事業環境の構造変化並びに対応策の工夫不足があることが窺われる。

 映画がヒットするとその関連商品が売れる。これがデイズニーのような企業のお定まりの業績拡大パターン。ところが、これが通用しなくなった。なぜか。情報化社会の進展が悪影響を及ぼしているのだ。

 様々な企業がディズニーに負けじとばかりに作品を発表しているので、劇場で見た映画をビデオで繰り返し楽しむことを妨げている。次から次に登場してくる新しい情報を追うことで忙しく、ひとつのことをじっくりと楽しむことができなくなっているのだ。

 情報化社会の進展は上記したような影響を及ぼしているだけではない。知識豊かな消費者を生み、これもディズニー・ビジネスにマイナスとなっている。子供はテレビやインターネットを通じて“世界通”になったために、子供騙し的な商品ではもはや満足しなくなってしまった。だから、映画「スターウォーズ」は大ヒットしたが、関連玩具が売れない。こういう現象が起きているのだ。

 ディズニーはこのような事業環境の地殻変動に適応しようとして、事業内容を広げることとなり、この経営行動がグループ全体としての収益力の低下に結びついた。

 ディズニーは情報化の波に乗り遅れまいとして、ABC放送を買収し、放送事業に進出した。そして、広告スポンサーを獲得しやすいように、ナショナル・フットボール・リーグの放映権を獲得した。ところが、このナショナル・フットボール・リーグの放映権がとてつもなく高価。そこで、このコストを吸収するために、ABCの子会社であるローカル放送局をも買収することとなった。

 情報化の波に乗り遅れまいとする努力は放送事業への進出に留まることなく、インターネット事業への本格的進出にまで及んだ。ディズニーはインターネット検索大手インフォシークを完全買収し、これまでディズニーの子会社に分散していた複数のネット関連会社と統合させることになったのだ。

 必要に応じて次から次へと事業を広げた結果、ディズニーは一大メディア・コングロマリットに変貌し、年間売上高は160億ドルから230億ドルに膨れ上がってしまった。そして、規模の拡大に利益率がついていけなくなってしまったのだ。

 事業規模の拡大は利益率の低下を招いただけではない。ディズニーお得意の収益力回復ショットを打てなくしてしまった。同社は業績が悪化すると、テーマパークの入場料金を上げたり、クラシックなビデオ・ソフトを引っ張り出して一時凌ぎをしていた。ところが、前述した情報化の影響や業容の拡大があるために、このやり方では業績の悪化を食い止めることを困難にしてしまったのだ。

 ディズニーが事業環境の構造変化に見舞われたのみならず、対応策の工夫不足があると前述したのは、上記「一大メディア・コングロマリットへの変貌」による利益率の低下のことを指しているのではない。

 脱工業化の進展の必然性を考えると、放送事業への新規進出やインターネット事業への本格的進出は適切きわまりない。そして、新規事業は先行投資を必要とするので、全体の利益率が低下するのはやむを得ない。

 でも、「もしかしたら」ではあるが、一大メディア・コングロマリットの運営に全事業の相乗効果を最大にする面で工夫不足があるかもしれない。なぜなら、ディズニーの事業全体は次のように経営されるべきであると思うからだ。

 顧客がケースバイケースに応じて娯楽生活を楽しめるようなコンサルティング・プログラムを開発する。このコンサルティング・プログラムを用いて、小売事業・放送事業・インターネット事業を行い、いわゆるコンテンツを含む商品の仕入れや販売を行う。

 (コンサルティング・セールスは合理的な販売活動のみならず、市場ニーズに適応したコンテンツを含む商品の仕入れを可能にするはずなのだ。それから、不特定多数の顧客に対するコンサルティング・セールスはマーケティング・リーダーに対して行えばよいのだ)

 上記「コンサルティング・セールス」はヒットする映画作りにも大きく貢献できよう。放送・インターネット事業で、「かくかくしかじかの理由により、かくかくしかじかのコンテンツを仕入れる」という形での事業展開の積み重ねは、「どのような映画がなぜヒットするか?」の判断を正しくすることに結びつくはずだからだ。(自社映画のヒットはその他の事業の活性化に結びつくのは言うまでもない)

 新規事業・新製品(サービス)はすべからく市場ニーズと技術シーズの新規性の度合いの組み合わせ。どの組み合わせがベストであるかは市場が決めること。例えば、既存市場に余裕があれば、既存の技術で対応するがベスト。しかし、市場が成熟化していれば、その度合いに応じて技術の新規性が必要となる。

 上記したような判断を正しく行うためには、市場調査やフィージビリティ・スタディーを十分に行わなくてはならない。ところが、この辺りが不十分なまま事業化してしまいがち。だから、失敗してしまうのだ。コンサルティング・セールスはこの不十分さをなくすことに貢献するはず…と考えているのだ。


 ディズニーの業績低迷はこの記事掲載以降も続き、当然のこととして株価低迷並びに経営陣の内紛を、この二つが株主の厳しい批判を招くに至っているようです。


2004.3.3付け『朝日新聞』の11頁から転載


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