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【脱集団主義の時代】


渡辺高哉著『脱集団主義の時代』 (1997.1.7刊) より転載

→個別企業再生の秘策

13. 能力の見直しと入れ替えを円滑に行う秘訣

やり方次第で企業の未来像にそう形で事業機会を確実にキャッチすることは可能であることはよく分かりました。残された問題は能力の見直しと入れ替えですが、「会社は自分たちのもの、経営者は生え抜きの仲間から出すべきもの」という価値観から脱却しきるには時間がかかることを十分に認識した上での対策を講じなければなりません。

 なぜなら、「大胆なM&Aや経営パートナーの社外からの登用を行うかたわら、大々的な配置転換を行ったところ、求心力が低下し、有力人材の社外流出を招いてしまった」という、この「問答集」の前のところで出た例は伝統的な企業では特殊なものではなく、共通のものと考える必要があるからです。

 しかし、だからと言って、事業構造の再構築を先に延ばすわけにいきません。となれば、能力の見直しと入れ替えは避けて通ることはできません。どうすればよいのでしょうか。

脱日本的経営を円滑に遂行するためには、四つの条件が必要なのです。「企業が生き抜くためには事業構造を再構築しなければならない。事業構造を再構築するためには、かくかくしかじかの能力を企業内に新たに取り込まなくてはならい」というコンセンサスをつくりあげること、これが第一の条件です。

 このようなコンセンサスが得られても事業構造の再構築が緒につかない場合があります。事業構造の再構築は企業の能力の再構築を必要としますが、これを実行しなければならないとなると、従業員だけではなく、経営者も及び腰になりかねないからです。なぜなら、脱日本的経営は営々と築いてきた組織の秩序破壊に結びつきかねないからです。

 経営者は日常的な管理業務から開放され、将来を睨んだ色々なことをするために、会社を留守にできるのは組織に秩序が保たれているからこそなのです。「あいつは皆と群れないから駄目だ」という風圧をかけるところまで踏み込むのはこういうことが原因しているのです。
ですから、脱日本的経営を行っても企業の恒常性が保てる。これが第二の条件となります。

 経営者が及び腰にならず毅然とした態度を採っても、従業員の新しい行動が上司を徹底的にたてれば万事0Kといったような「組織の暗黙の了解事項」と抵触しますと、「笛吹けども踊らず」となってしまいます。こういうことにならないようにするのが第三の条件です。

 経営者の吹く笛に応じて従業員が踊っても、事業構造の再構築に成功するとは限りません。能力の壁があるからです。この壁を乗り越えるためには、全役員と全従業員の個別努力目標とすべきものと社外から取り込むべきものとについてのコンセンサスが得られなくてはなりません。これが第四の条件です。


先ほど、「企業の未来を担う若手社員などの参加をも得て長期経営計画を策定すべきでしょう」とおっしゃっていましたが、第一と第四の条件を同時にクリアーするためには、全員参加が必要なのではないでしょうか。でも、これは容易なことではありません。何か妙策がないでしょうか。

 それから、第二の条件をクリアーするためには、日本的経営に代わる企業の恒常性を維持・強化できる仕組みを開発しなければならないところまでは分かるのですが、具体策となると、とんと見当がつきません。この点についてのヒントを頂けないでしょうか。

 第三の条件のクリアーはむずかしいことではないと思います。徹底的な聞き込み調査を行い、「組織の暗黙の了解事項」をもれなく認識する。その上で、「組織の暗黙の了解事項」の再構築を宣言し、この実行を支援する人事考課制度を発足させるなどの工夫を凝らせばよいわけですから。

全役員と全従業員が参加して事業展開シナリオなどを策定すれば、やり方を間違えなれば第一の壁はクリアーできます。しかし、第四の壁はクリアーできるとは限りません。全ての人が自発的に挑戦行動をとるとは限らないからです。

 本人の内面からわき上がってくることが挑戦の動機となる人、外部からの刺激が挑戦の動機となる人、無気力なため、ちょっとやそっとのことでは挑戦しない人、この三つのタイプがあるので、「第一のタイプには自尊心と自主性の重視、第二のタイプにはボーナスやペナルティの重視、第三のタイプには脅迫の重視」といった具合の動機付けが必要なのです。

 但し、これは短期的対策です。第三のタイプは第二のタイプに、第二のタイプは第一のタイプに転換させる努力をするといった長期的対策も必要であることは言うまでもありません。

三つのタイプのいずれであるかをどう見抜けばよいのでしょうか。この「問答集」の前のところで出てきた生い立ちがものを言うのでしょうが、もしそうであるならば、履歴書の形式や人事情報システムのあり方を抜本的に見直さなくてはなりませんね。

 それから生い立ちがタイプを決めるのであれば、タイプの転換なんて今更むずかしいのではないでしょうか。

幼少時や少年少女時代における保護者の態度と遊びの内容、就いた仕事の分野における技術進歩の度合いや開発の必要性の度合いと実績などを認識できれば、当人が三つのタイプのいずれであるかは判断できるのではないでしょうか。もっともこういう判断ができるようにするためには、おっしゃるように、履歴書の書式などは抜本的な見直しが必要でしょうが。

 それから、タイプの転換は諦めることはないと思うのです。第三のタイプを例にとると、辛いことが重なって無感動になってしまった上に、失敗を繰り返して自信を失って、とうとう無気力になってしまったのが多いのです。ですから、こういう人はまず感動の世界に誘う必要があります。

 これはむずかしいことではありません。「ひいきの人物やチームが勝つと人前で熱狂するのは、人間は自分が優れていることをなんらかの方法で証明したい本能を持っており、この代理行動としてひいきの人物やチームが勝つと人前で熱狂する」という本能を巧く使えばよいのです。プロ野球やタレントのファンになるようにし向けるとかを考えればいいのです。

 ただ感動するようになっただけでは駄目ですので、次は二段階アプローチで自信をつけさせることが必要です。ほどほどの挑戦機会を設け、脅迫の下で成功体験を積ませ、周囲のものがほめまくる。その際に、「やっぱり誰それさんの血を引いているから」とかの言葉を添える必要があるかも知れません。

 次は脅迫ではなく、自己決定による挑戦をさせることです。但し、いきなり第一のタイプに対する動機付けを行うのは無理ですから、第二のタイプに対する動機付けを行う必要があります。自己決定ができないために無気力になっているわけですから、先ずは自己決定の習慣をつくることが先決なのです。


第二のタイプの第一のタイプへの転換も同じような考え方で臨めばいいわけですね。第一のタイプの人間が多くなれば、脱日本的経営はやりやすくなるでしょうね。こういう人物は自分との戦いですから、誰がスカウトされてこようと、どこの企業を吸収しようと余り気にしませんから。但し、本人の人事異動の際は自尊心に最大の配慮が必要ですが。

 それはそれとして話を元に戻しましょう。全役員と全従業員が参加して長期経営計画を成功裡に策定する妙策と日本的経営に代わる企業の恒常性を維持・強化できる仕組みについてのヒントを教えて下さい。

企業の恒常性の維持・強化という視点で脱日本的経営のデメリットを整理すると、大きく分けて二つあります。集団主義の良さが失われ、個々バラバラの経営行動が目立つようになり、組織全体を所定の方向に誘導するのがむずかしくなり、生産性が低下する。これが脱日本的経営の第一のデメリットです。

 組織としてのまとまりが悪くなっても、有力人材の社外流出がなければ、属人的なノウハウは社内に留まるので、工夫を凝らせば、このノウハウを適宜利用できます。ところが、集団主義の良さが失われますと、先ほどの例にありますように、属人的ノウハウを持った人材を失うことになりかねません。これが脱日本的経営の第二のデメリットです。

 第一のデメリットを払拭する方策には色々あるでしょうが、「カイゼン」主義が通用しなくなりつつあることをも考慮に入れて、人事考課制度を見直し、新規事業・新商品開発至上主義の経営を行うことをお勧めします。そうすれば、社内は新規事業・新商品開発の話題で充満し、組織の求心力は高まるはずです。


新規事業・新商品開発至上主義の経営は聞こえはいいですが、社内から次々と適切な開発目標が生まれて来なくては何もなりません。これは大変な能力が必要ですので、そう簡単にはいかないのではないでしょうか。仮に巧くいったとしても、今度は開発目標の絞り込みや優先順位の設定という問題があります。この点どうお考えでしょうか。

適切な開発目標設定力の問題は、さっき提案した「信賞必罰の人事考課が行われること、ノルマを達成するための方法について適切な助言ができる人が身近に存在していること、助言に基づいた勉強を支援する体制が整っていること、概念拡大と論理化の手法を用いたコミニュケーションの習慣づくりをすること」の四つが解決に役立つはずです。

 それから、「多数の新規事業のアイディアが出てきた場合、スクリーニングと優先順位の問題が出てきますが、事業展開シナリオをこの際の評価基準に使えますので、コンセンサスが得られ易くなります」と申し上げたことをも思い出して下さい。


そうだったですね。属人的ノウハウを持った人材が社外に流出するというデメリットは全役員と全従業員のノウハウを集結する形で意志決定支援システムをつくり、このシステムを電脳空間を使って活用せしめれば、このシステムの精度が上がる。理屈ではこんなことが考えられますが、実現できるでのでしょうか。

生産性革命のために、企業のあらゆる業務内容を抜本的に見直すプロジェクトを発足させ、経営センスがあり、かつ構想力豊かな人材をこのプロジェクトの担当者に登用すれば、実現できるのではないでしょうか。但し、各担当者と何度も何度も意見交換し、意見交換の結果を総合的に考察しなければなりませんから、時間はかかります。

 全役員と全従業員が参加して事業展開シナリオなどを策定する際の隠された障害は企業内に時間的余裕がないことです。この策定作業自体がかなりの時間を必要としますので、このプロジェクトに熱心になると、本業の方がおろそかになってします。それから、策定後は新規事業などで仕事量が増える。こういった問題があるからです。

 ですから、全役員と全従業員が参加して事業展開シナリオなどを策定する前に、企業のあらゆる業務内容を抜本的に見直すプロジェクトを発足させるのが理想です。

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