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→変革の時代が生み出す新市場を確実にゲットする。これが技術「カイゼン」力を生かし続ける道だ ― 巨額の赤字を出した三菱重工の事業再構築のあり方から考える 〈2000/4/28〉

 三菱重工は1997年に最高益を出し、バブル崩壊の影響を克服したかに思われた。ところが、1360億円という巨額赤字を2000年3月期決算で一転して計上することとなった。このような事態に陥った原因分析と打開策の考察は、わが国企業の本格的な再生のあり方に貴重なヒントを与えてくれる。

 市場が成熟したために、得意技である「カイゼン」力が通用しなくなると共に、業績不振に陥ってしまった。だから、模倣から独創へと転換しなければならない。これがわが国における企業の一般的な実態であることを否定する者はいない。だが、「どのようにして模倣から独創へと転換するか」となると、はたと戸惑うことが少なくない。

 市場が成熟化すると、その市場の周辺に新しい需要が生まれる。そして、この新しい需要に応えるためには、製品・サービスの組み合わせが必要となる。新時代は、診断された性格に相応しい製品・サービスを一括供給できる「新中間業者」のような、業種の枠を超えた新しい業態のビジネスチャンスを生み出しつつある。

 このような「選択性と組み合わ性」で勝負できるのは消費財分野だけであろうか。「否」である。過去の延長線上では考えられないような技術の組み合わせを必要とする、新分野が生産・資本財分野でも登場しつつあるのだ。

 大競争時代を勝ち抜くためには、事業分野を絞り込まなくてはならない。これが常識になりつつある。ところが、三菱重工のあるべき姿を考察すると、この常識が必ずしもすべてではないことに気が付く。変革の時代が生み出す新市場を確実にゲットできさえすれば、事業分野の絞込みとは逆の戦略が成功する可能性を秘めているのだ。

 三菱重工のこれからのあり方の考察を通じて、「どのようにして模倣から独創へと転換するか」のヒントを提供したい。


1、三菱重工はどうして巨額の赤字を出すに至ったのか

― 中途半端な状態で不慣れなメガコンペティションの世界に突入したからだ

 造船が創業の事業。したがって、産業界の基盤技術を先進国から逸早く導入できた。そして、日本経済は重工業の拡大によって高度成長路線を歩むこととなった。したがって、先進国から導入した、幅広い基盤技術は「カイゼン」し続けることができた。言い換えれば、重工業分野全般で技術的優位性を享受し続けることができた。

 三菱重工の非価格競争力が磐石のものとなったのは、上記のようにしてできあがった技術的優位性があるからだけではない。市場が右肩上がりであったこと並びに規制によって守られている顧客(電力会社など)が存在していたこともプラスの原因となっていた。

 ところが、同社を取り巻く環境が一変してしまった。既存分野で「カイゼン」の余地がなくなってしまったために、技術的優勢を保てなくなってしまった。国内市場は横ばいどころか縮小してしまった。電力分野などで規制の緩和が行われることとなった。この三つが出揃ってしまったために、重工業メーカーはおしなべて縮小したパイの中で厳しい価格競争にさらされることになってしまったのだ。

 そこで、三菱重工は新市場ではなく、発電所などの旧市場を主戦場とするために、海外に活路を求めることとなった。「国内が駄目なら海外があるさ」というわけだ。ところが、旧市場の競争条件が大きく変ってしまっていた。発電所用のタービン技術で三菱重工はゼネラル・エレクトロニクス社に太刀打ちできなくなっているのだ。

 発電所のタービン需要は蒸気タービンからガスタービンにシフトする中にあって、三菱重工はガスタービンだけではなく、蒸気タービンも並行して取り扱う。言い換えれば、幅広い技術基盤を保ち続けることにこだわった。一方、ゼネラル・エレクトロニクス社は蒸気タービンに見切りをつけて、ガスタービンに集中した。言い換えれば、成長が見込める技術分野への絞込みを行った。

 このような戦略の違いが三菱重工とゼネラル・エレクトロニクス社とのタービンにおける技術力の差を生んでしまったのだ。

 ゼネラル・エレクトロニクス社はごく自然に電力会社にタービンのみを納入するやり方を採用。一方、三菱重工は"仕方なく"発電所全体を請負う方式を採用することなった。「コストで勝負しても、トータル受注であれば、必要利益を出せる」と判断したのであろう。

 ところが、三菱重工のこの判断が裏目に出てしまった。なぜなら、発注側が満足行くまで設計仕様の変更を要求する事態がほとんどの工事で発生し、大幅の赤字を積み上げることになってしまったからだ。

 商品供給側には技術的優位性はない。一方、商品購入側は経験を積み、すっかりプロになってしまっている。しかも、商品は巨額のシステム商品。こういうことが重なれば、発注側が満足行くまで設計仕様の変更を要求するのは当然の成り行きなのだ。

 それでは、発注側が満足行くまで設計仕様の変更を要求することが赤字に結びつくのは仕方がないのであろうか。「否」であろう。なぜなら、三菱重工は技術的優位性を誇り続けてきたために、顧客の仕様変更に敏速に対応する仕組みを作り、訓練する習慣がなかった。だから、余計なコストを発生させてしまった。こういうことが言えそうだからだ。

 この惨憺たる経験から、次の二つの教訓が浮かび上がってくる。

 「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」ではないが、巨額のプロジェクトの場合は事前のシミュレーションを十分に行い、バーチャルの世界であらゆる仕様変更に応えられる準備をすべきであった。これが第一の教訓。  規制によって保護され続けてきた業界に所属する企業がおしなべてそうであるように、厳しい競争がない、有利な立場での商売を長年にわたって行っていると、甘い体質が醸成される。このことをしっかりと認識しなければならないであろう。

 技術が成熟した慣れ親しんだ分野に固執するのであれば、価格競争は必定。ところが、三菱重工は伝統的に価格競争を得意としていない。となれば、価格競争が避けられない分野ではなく、得意の技術「カイゼン」力を発揮できる分野を積極的に開拓すべきであった。これが第二の教訓。

 得意の技術「カイゼン」力を発揮できる、新しい成長分野がないのであれば仕方がない。しかしながら、後で述べるように、このような新しい成長分野があっただけに残念でならない。蒙った赤字は巨額過ぎる。したがって、「結果論」ではすまされないであろう。

 わが社はどのような体質を醸成してきたのか。これから攻めようとする市場はこの体質が通用するのであろうか。時間をかけて、この二段階の検討を行わなければならない。そして、これまでの体質が通用する市場での事業展開を心がける。これまでの体質が通用する市場での事業展開が困難であるのであれば、それ相応の準備をする。こういう緻密な経営が必要なのだ。


2、三菱重工はどのように再生されようとしているのか

― 持ち前の技術「カイゼン」力が発揮できる新分野を開拓しようとしているが・・・・

◎三菱重工の複合技術力を発揮できる分野を開拓する

 重工業分野での既存の要素技術は成熟してしまった。こういうこともあって、三菱重工の商売は厳しいものとなったのであった。しかしながら、同社の優位性を発揮できる、複合技術を必要とする分野がある。ゼネラル・エレクトロニクス社がこれまで優位性を誇ってきた、ガスタービンのこれからのあり方がその一例だ。

 ガスタービンの性能は、燃焼温度が高いほど効率が高い。そこで、各社は1500度で、開発のしのぎを削っている。このような技術が主流となると、三菱重工の方がゼネラル・エレクトロニクス社よりも有利になる。なぜなら、ここまで温度が高くなると、もはやガスタービンの羽だけでは冷却技術が完結せず、蒸気タービンやボイラーなど、一体で冷却システムを設計する必要があり、幅広い基盤技術を持つ三菱重工の強みがクローズアップしてくるからだ。

 同社はリニア・モーターカー、防災・緊急医療用のヘリコプター、新交通システムなどを今後開拓すべき新市場として位置付けているのは、これらの分野であれば、上記したような同社の強みを発揮できるからなのであろう。

◎他社とタイアップして新市場を開拓する

 複合技術で勝負できる分野があるからといって、三菱重工は持てる要素技術の組み合わせだけで対処しようとしているわけではない。基盤技術は自前主義を貫くとしても、その他については他企業と積極的にタイアップして新市場を開拓することを明確に打ち出している。大型客船などがその良い例だ。

 コストが勝負の分かれ目となってきたタンカーなどでの商売はできなくなってきた。一方において、大型客船の市場は拡大が見こめる。ところが、この分野はヨーロッパの造船会社の牙城。内装面でヨーロッパの方が優れているからだ。そこで、三菱重工はホテル・オークラの内装設計部門とタイアップして大型客船市場に殴り込みをかけて成功しつつあるのだ。

◎新技術開発のための先行投資を行う

 重工業分野の技術が成熟してしまった。だからといって、新技術開発の必要性がなくなったわけではない。社会は色々な側面から新技術を要求するようになるからだ。例えば、二つの着眼点があり、三菱重工はこの面での準備も怠りがないようだ。

 社会構成要素が変ったらそれに対応するための技術が必要になる。これが第一の着眼点。

 地球規模での工業開発が引き起こすであろう、石油や天然ガスの価格上昇は膨大に埋蔵されている石炭の有効利用の必要性にいずれ結びつくであろう。すると、石炭の有効利用のためには、石炭をガス化して天然ガス並の品質にしてガスタービンを回す、石炭ガス複合技術が必要となる。これが第一の着眼点に基づく技術開発の例だ。

 元々ある社会的矛盾解決のための技術が必要になる。これが第二の着眼点。

 特定地域に犠牲を強いる形で建設されてきた集中型発電所では今後増大する電力需要を賄いきれない。そこで、分散型発電所建設が必要になる。分散型発電所を建設するためには、燃料電池とマイクロタービンの技術が必要となる。これがこの着眼点に基づく技術開発の例だ。

◎万全と思われる三菱重工の事業戦略に三つの疑問があ

 三菱重工の強みを発揮できる分野を開拓する。新分野開拓に必要だが、不足しているリソースは他社との積極的タイアップにより補う。のみならず、三菱重工の新しい強みも創る。

 三菱重工の再生の方向を総括すると、上記の通りとなる。これで万全であろうか。三つの疑問が浮かび上がってくる。

 ゼネラル・エレクトロニクス社のような技術分野の絞込みを行わない。だから、幅広い基盤技術を保てる。だから、新市場開拓の鍵となる複合技術を持つことができる。三菱重工の経営のやり方はこのようなメリットを生む反面、利益率の低下を招き、利益率の低下は株価の低迷を、株価の低迷は資金調達面での不利に、資金調達面での不利は積極的事業展開の足かせになりかねない。こういう負のシナリオが考えられる。これが第一の疑問。

 ゼネラル・エレクトロニクス社のガスタービンのような世界一の要素技術を集めて、三菱重工を陵駕する複合技術を臨機応変に開発する企業が誕生した場合、三菱重工の戦略は陳腐化しかねない。これが第二の疑問。

 新技術開発のための先行投資が上記した二つの疑問に応える役割を担うのであろうが、これだけでは心もとない。

 新しい成長市場で独壇場の立場を築く。のみならず、既存市場での競争力を強化する独創的な対策を講じることなくしては、三菱重工が幅広い基盤技術をキープしつつ、高収益路線を歩むことは難しいように思われる。ところが、そのような独創的対策を立てている様子が見当たらない。これが第三の疑問。


3、三菱重工はどのように再生されるべきであろうか

― 抜群の市場密着力を創り、新公共事業と企業変革事業を推進する企業を目指すべきであろう。

◎西岡社長の経営方針は正しい。しかしながら、実行には工夫が要

 既存市場がすっかり成熟してしまった一方において、老朽化したビルの省エネルギーや性格にマッチした生活の追及などのような、新しい需要が生まれてきている。そして、この新しい需要を充足するためには、製品・サービスの個性的な組み合わせが必要である場合が多い。

 老朽化したビルの省エネルギーを実現するためには、ビルの実態を診断した上で、断熱材・節電機器などのパッケージを"一品料理"として提供する。あるいは前述したように、性格診断をした上で、性格にマッチし、かつ特定生活場面に必要な製品・サービスのパッケージを提供するといった具合に。

 単品や要素技術で独壇場の地位を維持できない限り、工業製品分野はコンサルティングを前提とする、製品・サービスの選択性と組み合わせ性で勝負しなければならない時代がやってきたのだ。

 したがって、重工業分野においても要素技術のほとんどは成熟の域に達しているからには、三菱重工の西岡社長の「ゼネラル・エレクトロニクス社のように技術分野の絞込みを行わず、幅広い技術基盤を死守する」という経営方針は正鵠を得たものと言えよう。

 それから、「多々益々便ず」の形で幅広い技術基盤を死守することは、わが国の企業経営の課題である「模倣から独創への転換」を実現させるための必要条件の充足に結びつくであろう。創造とは森羅万象の独創的組み合わせだからだ。(要素技術の独創的組み合わせに結びつく、開発目標を臨機応変に適切に設定できるようになる。これが十分条件であることは言うまでもない)

 しかしながら、前述したように、幅広い技術基盤の死守は、競争力や成長性の乏しい事業分野を抱え込むことに、これが三菱重工全体の利益率の足を引っ張ることに、利益率の足を引っ張ることは新技術開発の先行投資力を損なうことに結びつきかねない。

 それに、低収益は株価の低迷に、株価の低迷は被買収企業の憂き目に遭い、打ちたてた経営方針に従った経営ができなくなることに結びつきかねない。繰り返しになるが、このことを認識しなければならない。

 それではどうしたらよいのか。次のような事業展開を行うことが必要になるのではなかろうか。

◎現有市場の変革を積極的に支援しよう

 企業が成長し続けるためには、成長分野に存続することが必要不可欠。したがって、年間売上高が最盛期の900億円から100億円になってしまった精密工作機械の販売市場からは撤退すべきかもしれない。しかしながら、このような販売市場から単純に撤退することは早計と言うべきであろう。

 同じ業種で同じような経営資源を持ちながら、年月を経るにしたがって、運命を大きく異にするのが企業経営の現実。言い換えれば、企業経営は舵取り次第で運命が決まる。このことを考えると、上記のような販売市場であっても、三菱重工商品の売上増に結びつく形で業績を大きく伸ばすことは不可能ではないからだ。

 三菱重工の取引先が環境変化への適応に成功することは、三菱重工の取扱商品のスクラップ・アンド・ビルドを伴うかもしれない。だが、そのこと自体は三菱重工にとってさしたる問題ではないであろう。なぜなら、企業のいかなる要請にも対応できるようにするための、幅広い基盤技術の死守、これが三菱重工の狙いだからだ。

 このように考えると、ゼネラル・エレクトロニクス社と三菱重工の市場棲み分けがくっきりと浮かび上がってくる。ゼネラル・エレクトロニクス社は絞り込んだが故に強化された技術力を使って、関連するサービス・ビジネスをゲットする。言い換えれば、顧客の現事業の強化に貢献するのに向いている。一方、三菱重工は顧客の事業や業態変革に貢献するのに向いている。こういうことが言えそうなのだ。

 この両社の棲み分けのあり方が正しいとすれば、市場を日本に限定すると、ゼネラル・エレクトロニクス社よりも三菱重工の方が時代性において優れているのかもしれない。なぜなら、次のことが指摘できるからだ。

 終身雇用制度・系列取引などの長期コミットメント体制や構想力不足が災いして、新時代に相応しく企業を改造できなかったから、日本経済は低迷を余儀なくされてきた。ところが、長期コミットメント体制は急速に崩壊しつつある。構想力さえあれば、多くの企業は事業や業態変革に取り組むであろう。

 顧客企業の適切な事業戦略を提言できる能力さえあれば、三菱重工は既存市場にあっても、成長分野を開拓できるチャンスが大いにあるのだ。

 顧客の事業支援ビジネスを世界的に眺めた時には、コスト志向の顧客企業はゼネラル・エレクトロニクス社、付加価値志向の顧客企業には三菱重工。このような形での両社の棲み分けが可能になるのではなかろうか。

◎成長性豊かな新市場を積極的に開拓しよう

 台北と高雄を結ぶ高速鉄道プロジェクトの実質的受注決定(三菱重工が日本企業連合の纏め役)、ヘリコプター遊覧船事業会社であるエクセル航空への日本発の純国産民間ヘリコプターの納入(防災や緊急医療用のヘリコプターに結びつくことが期待されている)、ITS(高度道路交通システム)の先駆けとなるETC(ノンストップ自動料金収受システム)の阪神高速道路への納入など、三菱重工の新市場開拓には目覚しいものがある。

 上記のETCの他、既に取り上げた大型客船・燃料電池・マイクロガスタービン・太陽電池・ガス化溶融炉など24項目の新技術開発テーマを設定するなど、三菱重工は新しい成長分野開拓に向けた舵取りをしっかりと行っている。

 しかしながら、二つの不安がどうしても筆者の頭をよぎってしまう。企業経営で一番大切なのは開発目標の設定であるだけに、新しい成長機会や新技術の開発テーマに洩れがありそうな気がする。これが第一の不安。

 この不安をなくすためには、新しい市場(ニーズ)にどんなものがあるかを洩れなく認識し、それを体系化する。次に、体系化されたニーズ実現のために新たに必要な技術(シーズ)を洩れなく認識し、それを体系化する。そして、ニーズ・シーズの関連樹木図を作成することが必要となろう。

 何をすれば人間の行動半径が拡大できるであろうか(高速鉄道以外にも色々あるであろう)。広義の安全保証のために何が必要であろうか(防災や緊急医療用のヘリコプター以外にも色々あるであろう)。どんな渋滞が起きているか、そして、渋滞を軽減するために何が必要であろうか(高速道路以外でも色々と渋滞があるし、ETC以外にも高速道路の渋滞を軽減する方法は色々あるであろう)

 新しい市場(ニーズ)にどんなものがあるかを洩れなく認識するためには、上記のような作業を徹底的に行う必要があろう。(ニーズの体系化ができあがれば、三菱重工は幅広い基盤技術を持った企業であるので、ニーズ実現手段のシーズの体系化は比較的簡単にできよう)

 ニーズ・シーズの関連樹木図が完成されれば、しめたものだ。なぜなら、幅広い選択肢を踏まえての、開発目標のスクリーニング並びに成長性や波及性の高い市場や技術の開発を優先させる、事業展開シナリオの作成が容易にできるようになるからだ。

 開拓すべき市場を洩れなく認識でき、しかも事業展開シナリオができたとしても、市場からの取引の引き合いが洩れなく、逸早く三菱重工に来るようにならないと、企業間競争で後塵を拝することとなってしまう。これが第二の不安。

◎総合コンサルティング事業を確立しよう

 この第二の不安をなくすためにはどうしたらよいのか。標的となる顧客に歓迎されつつ洩れなく遅滞なく接触する。顧客から優先的に相談される。三菱重工がこのようになれば、第二の不安を完全に取り除くことができるであろう。それではどうしたらよいか。顧客にとって頼りになる総合コンサルティング事業を確立することを薦めたい。

 どのような場合にどのような技術要素が必要であるか。そして、必要な技術要素は社内の何処にあるかが分る技術本部が三菱重工にはある。顧客の事業戦略が策定できさえすれば、天下一品の技術的フォローができるのだ。言い換えれば、三菱重工が理想的な総合コンサルティング事業を営むために不足しているのは、事業戦略策定のプロだけなのだ。

 但し、事業戦略のプロ予備軍は三菱重工であれば社内に存在しているはず。そこで、技術本部・社内の事業戦略のプロ予備軍・この種の能力を持った外部のコンサルタントの3者からなる、総合コンサルティング・グループを発足させることが考えられる。

 核を確立し、仕事を通じて核の拡散を実現させる。こういうやり方で、事業戦略のプロの数を増やしていけばよいので、タイアップあるいはリクルートする、この種の能力を持ったコンサルタントの数はそれほど多くなくてもよいであろう。但し、構想力豊かなコンサルタントを是が非でも調達しなければならない。

 以上から明らかなように、三菱重工が理想的な総合コンサルティング事業を営むために必要な能力を確立することは難しいことではない。相談に訪れる顧客が門前市をなすようになることが大問題だ。なぜなら、そうならなくては、第二の不安を払拭するための条件(標的となる顧客に歓迎されつつ洩れなく遅滞なく接触する/顧客から優先的に相談される)の充足が困難になるからだ。

 それではどうしたらよいのか。三つの対策の実行を提案したい。

 マーケットイン・アプローチの新規事業・新製品(サービス)を徹底的に行う力学を生み出すために、三菱重工の販売部門を市場の種類別に細分化し、市場別の独立採算制を確立する。これが第一の提案。総合コンサルティング・グループの助けを求めざるを得ないようにするのが狙いなのだ。

 但し、販売担当者の意欲がいくら旺盛でも、適切な問題意識がなければ、総合コンサルティング・グループの出番を顧客から引き出すことができない。そこで、顧客である市場別の事業戦略の選択肢と選択基準を予め作り、これに基づいた研修を販売担当者に行う。これが第二の提案。販売部門がある程度自助努力できるようにして、総合コンサルティング・グループの負担を軽減することも狙いにあるのだ。

 販売部門の得意先に対する自助努力的なコンサルティングには自ずと限界があろう。このことを販売部門のみならず得意先も認識した時に始めて総合コンサルティング・グループが有料で登場するようにすればよいであろう。

 上記の事業戦略の選択肢と選択基準の開発は総合コンサルティング・グループの仕事となるが、更に欲張った作業を期待したい。前述したニーズ・シーズの関連樹木図とドッキングさせ、インターネットを使った自動コンサルティング・プログラムを開発するのだ。これが第三の提案。内外の市場に対する三菱重工の求心力を徹底的に強化するのが狙いであることは言うまでもない。

 成長性豊かな新市場に逸早く密着する。そして、得意技である技術「カイゼン」力を思う存分発揮しつつ、独創的な技術開発がタイムリーに生まれるのを待つ。言い換えれば、脱「カイゼン」的な事業のフレームを創り、このフレームの中で技術の「カイゼン」力を思う存分発揮させつつ、次世代技術を温める。これがこれまで述べてきたことの総括。



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